最近、わたしが個人的にハマっている人が2人います。
「先崎彰容」さんと「小泉悠」さんです。
どちらも大学の先生を務めている方です。
お二人とも露出が多い方ではありませんが、テレビやyoutube番組などにときどき出演されています。
今日はロシアの軍事・安全保障政策の専門家の小泉悠さんについて書いていきます。
小泉悠さんは軍事オタク
小泉悠さんがテレビなどによく出てくるようになったのは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻がきっかけです。
ロシアの軍事・安全保障の専門家として戦況や登場する兵器を映像を交えて解説してくれています。話しぶりは専門家というより、「話し上手な軍事オタク」という印象です。
小泉悠さんはロシア(旧ソ連)のつくる兵器が好きでロシアにも滞在した経験をもっています。なんと奥さんは、ロシア滞在時に出会ったロシア人のエレーナさんという方なんですよ。
東京大学先端科学技術研究センター所属という立派な肩書をもっていますが、大学の先生らしからぬ分かりやす言葉とゆるいキャラクターで界隈で人気を博している人物です。
単なる軍事オタクではない
小泉さんは、ご自分でも「軍事オタク」という表現で自己紹介をしています。
一般的に「軍事オタク」というと兵器や戦術が大好きな変わった人、というネガティブな文脈で使われますよね。小泉さんももちろん兵器が大好きです。
でも小泉さんは単に軍事オタクと言うだけではなく、国際情勢や安全保障を国の哲学を交えて大局的に語ることができる見識と人を惹きつけるキャラクターを持っています。
これらが評価され、メディアや国の安全保障に関する会議に引っ張りだこになっています。
小泉悠さんの魅力は「ユルくて深い解説」
軍事・安全保障の専門家というと元自衛隊員のような精悍なオーラをまとったイメージを持つと思います。
小泉悠さんの場合は、ゴリゴリの軍事解説というより、平易でユルイ言葉でキナ臭い軍事のことを喋ってくれます。そのギャップ自体が魅力でもあります。
小泉「国民の理解が得られない兵器は役に立たない」
私が特に好きな小泉さんの言葉はこれです。
「国民の理解が得られない兵器は役に立たない」
各国がどのような兵器を持っているかでその国の安全保障の思想が見えてきますよね。
たとえばアメリカを代表する兵器に原子力空母があります。アメリカは空母を十数隻運用していますが、アメリカの空母はたった1隻で世界の70%の国々の空軍戦力を上回ると言われています。たった1隻にノルウェーやオランダ1国分の規模の空軍戦力が載っているわけです。
アメリカが大金をかけて複数の空母を運用し、地球の裏側にまで影響力をおよぼそうとするのは、世界の警察官としての役割を果たすためです。アメリカはこの圧倒的な戦力を背景に、地球上で起こる紛争に介入し、国際秩序の安定を図ってきました。このアメリカの世界戦略のために原子力空母は必要でした。
一方で、日本はご存知のとおり、専守防衛に重点を置いています。この安全保障戦略を実行するにあたり、アメリカのように世界中に自国の戦力を誇示する巨大原子力空母を保有する優先順位は高くありません。もちろんあれば役に立つのでしょうが、費用対効果で割に合わないという意味です。
兵器は国民が支払った血税で買う限りのあるものです。なんでもかんでも買い揃えればいいというわけではありません。
またお金の問題以外に国民の感情の問題があります。わかりやすいのが「核兵器保有」の問題です。
日本の周辺国には核兵器を保有している国が複数あります。しかもそのいずれも日本と潜在的に敵対関係にあると言って良いでしょう。それらに対抗するするために日本で核保有の議論が行われるのは、安全保障上、不可思議なことではありません。
一方で、日本は戦争で核兵器による被爆を受けた唯一の国としての歴史をもちます。この歴史は日本国憲法の平和主義と並んで、日本人の中に脈々と受け継がれてきた血肉のようなものだと思っています。日本ほど平和を愛し、平和ボケしている国もなかなか珍しいと思います。第二次世界大戦後の80年間、武力紛争に関わった国というのは世界200ヶ国のうち数ヶ国しかありません。
数十万人の命を一撃で奪うことができる核兵器を日本が保有できたとしても、使うべきときにそれを使うことが本当にできるでしょうか。国民も核兵器の使用に理解を示すことができるでしょうか。私は、いざそのときに躊躇してしまう国であって欲しい、と思うんです。甘い考えなのはそのとおりだと思います。しかし核兵器に関しては、日本は半分では現実主義者を、もう半分では理想主義者を演じ続けてほしいのが個人的な願いです。
日本人の安全保障思想に核兵器が必要かどうかは、大いに議論をしてほしいところです。
「人」が中心の戦争解説
小泉悠さんの戦争の解説には、「人」が中心に置かれていることに気づきます。
ロシアによるウクライナ侵攻の解説でも、軍事オタクなのに兵器の話以上に人の想いに注目した解説が多いです。
印象深かったのは、「2022年からはじまった今回の戦争でウクライナにはじめて『ウクライナ国民』ができた」という言葉です。文字面だけ見るとなんのこっちゃですよね。
ウクライナはもともと、1991年にソ連が解体されるまでソ連の一部でした。ソ連になる以前もポーランド、リトアニア、オーストリアなど周辺国の一部として支配・割譲されていた期間が長く、ウクライナは他国の属国を意味する「帝国のしっぽ」と揶揄されていました。
小泉さんも今回の戦争がはじまった当初は、「ウクライナは数カ月でロシアに降伏してしまうのではないか」と予想していたそうです。しかし2026年でまる4年。ウクライナは大国ロシアに逃げずに一人で戦い続けています。これはウクライナ人に「自分はウクライナ人なんだ。ウクライナ人としてウクライナという国を守るんだ」という強い意志があったから、いまだに粘り強く戦えているのではないかと小泉さんは分析します。
2022年の侵攻以降、毎日、ロシア軍は蚕が桑の葉を食べ進むようにウクライナ国土を蝕んでいます。侵攻開始直後の首都キーウへの猛攻でも大統領は逃げなかった、兵士も多くの犠牲者を出しながら前線で踏ん張っている、アメリカの援助が減っても自前で兵器を開発して核使用の恐怖にも抗って戦っている。
ウクライナ人がウクライナ国民を自認して自国を守るために命をかけている。
このウクライナ人の意識の変化は、おそらくプーチン大統領にとっても大きな誤算だったのでしょう。
小泉悠はこれからも注目の研究者
小泉悠さんは大学やメディアでの活動以外に「一般社団法人DEEP DIVE」という民間インテリジェンス組織の立ち上げに携わっています。
この組織は日本を取り巻く国の専門家たちが、衛星画像を用いて各国の軍事施設の様子を観察し、日本に対する脅威をいち早く察知することを試みています。
youtubeでその手法を見せてくれています。
例えば、公表されていない中国の軍事施設を探すには、バスケットボールのコートを衛星画像で探すと見つけられるという技があります。これは中国の軍人はバスケットボールが好きで、軍施設にはバスケットボールコートが備えられている確率が高いからだそうです。おもしろいですよね。
日本でもインテリジェンスの必要性が叫ばれている昨今、このDEEP DIVEという組織の活躍の場が増えていきそうですよね。
小泉悠さんにこれからも目が離せません。
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