「見えた」の対象がずれていた。オチュンと学ぶ認識のずれの怖さ。

2015年10月10日、鹿児島空港で、着陸に向かう旅客機(A機)の前へ、小型機(B機)が入り込んで接近しました。A機は着陸をやり直すために上昇し、衝突を回避。けが人も、機体の損傷もありませんでした。

脚を下ろしたB767を後方から見た接近シーン。機首の先へ延びる青い着陸コースに、小型機Bが左側から入り込む。黄色の矢印が小型機の動きを示し、両機の進入方向の先に滑走路34が見える。
図1:小型機Bが、着陸進入中のB767の前方へ入る場面のイメージです。青い線は着陸コース、黄色の矢印は小型機の動き。A機はこの後、復行して上昇しました。機体の位置・距離・姿勢・地形は模式表現です。出典:本文p.1、3、6。

きっかけは、小型機Bが「続くべき飛行機」を取り違えたことでした。本来は旅客機Aの後に続くところ、さらに前を飛ぶDHC-8という別の飛行機を、指示された先行機だと思っていました。A機の後ろに続くはずが、その前へ入ってしまったのです。

調査報告書は、小型機の機長が、伝えられた機体の型式や位置を正しく理解していなかったと分析しています。また、管制官が小型機に着陸順位を伝えていなかったことも、取り違えに関わった可能性があるとしています。この記事では、その経過と、確認を確かなものにする工夫を、オチュンと一緒に見ていきます。

出典:運輸安全委員会・航空重大インシデント調査報告書 AI2016-6-1、本文p.1〜4、7。以下、ページ番号はPDFビューアーの番号ではなく、紙面下の本文ページ番号です。

目次

まず整理。3機はどんな順番で着陸するはずだった?

舞台は、鹿児島空港の滑走路34へ着陸するための、最後の直線コースです。報告書では、今回の接近を航空重大インシデントとして調査しています。事故につながりかねない事態を調べ、再発防止に生かすための報告です。

登場する3機の役割を、もう少し詳しく整理しましょう。

飛行機この事案での役割
DHC-8型機A機より先を飛んでいた機体。B機の機長が、続くべき相手だと取り違えた。
旅客機A:日本航空のB767-300(JA8364)羽田から到着。管制官は2番目の着陸順位を伝えていた。B機が本来続くべき相手。
小型機B:新日本航空のBN-2B-20(JA80CT)空港周辺を飛び、戻って着陸する予定だった。到着機が続くため、旋回しながら待機していた。

ここで、管制官の計画と、実際に起きた接近を並べてみましょう。

左は管制官が予定した流れで、DHC-8、旅客機A、小型機Bの順に着陸へ向かう。右は実際に起きた接近で、小型機Bが左から曲がり、旅客機Aの前方の最終進入コースへ入ろうとしており、接近した付近を赤く強調。どちらも小型機の場周経路を黄色で描いた比較図。
図2:左は管制官の計画、右は実際の接近。左右とも滑走路を上側に置き、黄色でB機の経路を示しています。右はB機が左から最終進入コースへ入る直前のイメージで、赤囲みが接近につながった付近です。順番と経路の関係を説明する、複数時点をまとめた模式図です。具体的な旋回位置・航跡・距離・高度差は再現していません。出典:報告書本文p.2〜3、5〜7。

左:管制官が予定した流れ。 管制官の計画は、DHC-8 → 旅客機A → 小型機Bの順番でした。B機が続くべき相手はA機です。左図では、B機がA機の後ろへ入る関係を描いています。経路と旋回位置は、予定した順番を説明するための模式的な表現です。

右:実際に起きた接近。 B機の機長は、A機より前を飛ぶDHC-8を、指定された先行機だと思っていました。その機体に続こうとして、B機はA機の左前下方から、その前へ入る形になりました。A機の「後ろ」に続くはずが、「前」へ入った。赤囲みが、この接近の生じた付近です。

A機は、着陸をやり直して上昇。 両機の接近を受け、A機は復行して回避しました。右図は接近につながったA機・B機の前後関係で、実際に着陸した順番ではありません。「前の飛行機が見えた」という返事の裏で、見ている相手が食い違っていたのです。

黄色の経路は、空港の周囲を回るトラフィックパターン(場周経路)を意識した形です。滑走路と平行に、着陸方向と反対向きに飛ぶのが「ダウンウインド」。横から着陸コースへ向かう区間が「ベース」、着陸に向かう最後の直線が「ファイナル」です。B機はダウンウインドで旋回待機し、その後、ベースからファイナルへ進みました。

場周経路の区間名と基本形の参考:FAA AIM「Airport Operations」4-3-2。各区間の名称と形を理解するための参考資料です。

オチュン

『前の飛行機』が2機いたんだね。見つけた1機が、続くべき相手とは限らないんだ。

交信は成立していた。でも、相手が違っていた

管制官はB機に、続くべき相手が「B767」で、滑走路まで13海里の直線コース上にいることを伝えました。海里は航空で使う距離の単位で、1海里は約1.85km。13海里は約24kmです。B機の機長は、了解し、探している旨を返答しています。

その後、管制官は、その機体が9海里、約17kmの位置に来たことを伝え、見えたら報告するよう指示しました。

ところが、その約40秒後、B機の機長が見つけたのは、滑走路まで約1海里、約1.9kmを飛んでいたDHC-8でした。機長は、この機体を指定された相手だと思い、「Final traffic in sight.」と視認を報告します。

管制官は、B機がA機を見つけたと受け取り、「Follow the traffic.」と、その機体に続くよう指示しました。B機の機長は復唱し、A機の存在に気付かないまま、着陸に向かう直線コースへ進みました。

管制官が指したのはB767の旅客機A。小型機Bの機長が実際に視認したのはDHC-8。同じ「見えた」という返答でも、対象が一致していなかった。
図3:交信と認識の食い違いを簡略化した図です。図中の日本語は説明用の要約です。9海里という情報の提供と、約1海里のDHC-8の視認には約40秒の時間差があり、同時刻の距離を比べたものではありません。出典:本文p.2〜3、5。

ここで抜け落ちたのは、「何を見つけたか」を具体的に突き合わせる確認でした。「見えた」「了解した」という言葉だけでは、機種や位置が一致しているかまでは伝わりません。

落とし穴① 経験がつくる「前にいるのは1機のはず」

B767は大型のジェット旅客機。DHC-8はプロペラで飛ぶ旅客機です。報告書も、両機は形や大きさが明らかに異なると指摘しています。

では、なぜ取り違えたのでしょうか。報告書は、B機の機長が、伝えられた型式と位置の情報を正しく理解していなかったと考え、その背景として、いくつかの可能性を挙げています。

  • 過去の経験から、「前の機体に続け」と言われるときは、先行機は1機だけだと思っていたこと。
  • 自分の着陸順位が伝えられていなかったこと。
  • 「約10分待つ」と聞いた約3分後に、まだ遠い先行機の情報が来たため、その情報を強く意識しないまま待機を続けていたこと。
  • 当日午前中に起きた出来事による心理的な影響が、機長の注意力や飛行への集中を妨げていたこと。

最後の「出来事」について、報告書には、B機の機長が飛行を中止することも考えたと記されています。それでも、操縦士に必要な「最近の飛行経験」を満たす必要があることなどから、飛行することにしました。どのような出来事だったのか、その具体的な内容は報告書には記載されていません。

これらは、報告書が関与した可能性を挙げた事項です。一つだけを原因と決めつけることはできません。ただ、「先行機は1機」という想定があると、見つけた1機を、そのまま探していた相手だと結び付けてしまう危うさが見えてきます。

対策として報告書が求めているのは、先行機が複数いる可能性を踏まえ、見えた機体の位置と型式が、伝えられた情報と一致するか確認すること。少しでも疑問があれば、管制官に確認する必要があるとしています。

出典:本文p.5、2.5(5)および本文p.5〜6、3.4(2)。

落とし穴② 違和感が出ても、「合っているはず」で見続ける

B機が着陸コースへ向かう途中、管制塔にいた別の管制官が、その動きに疑問を口にしました。A機の前に入ろうとしているのではないか、と気付いたのです。

担当の管制官は、目で位置を確認しました。しかし、そのときはA機の方が手前にいるように見え、B機は当然A機に続いていると考えたため、次に進入させる予定のヘリコプターへ注意を向けました。

報告書は、この時点で「B機はA機を追っている」という思い込みを外し、B機に無線で確かめたり、航空機の位置を表示する画面を参考にしたりしていれば、取り違えにもっと早く気付けた可能性を指摘しています。

ここから読み取れるのは、誰かの疑問を聞いたとき、今の想定を点検し直す大切さです。目を向けるだけで判断しきれなければ、別の情報や具体的な問い掛けを使って確かめる。その一手が、食い違いを見つける機会になります。

オチュン

『あれ?』は、確認をやり直すきっかけ。何を、どこで見たのかまで確かめたいね。

出典:本文p.3、5〜6、3.4(1)(3)。

衝突を防いだのは、見続けることと、着陸をやり直す判断

A機の機長は、機上の衝突防止装置の表示でB機に気付き、その後、目でも確認して、副操縦士に伝えていました。そして、B機の動きを注意深く見続けていました。

B機が前下方へ入ると、A機は管制官に前方の機体を通報しました。さらに近づいたため、機長は復行、つまり着陸をやめて上昇し、やり直すことを決断。ほぼ同時に、副操縦士も復行を宣言して操作を始めていました。

管制官はB機に、西へ離れ、高度を上げずに維持するよう指示。A機の乗員は、その指示とB機の応答を確認しながら、直線上昇を続けました。

最接近は16時54分12秒ごろ。報告書の分析では、水平距離が約10m、高度差が約250フィート、約80mだったと推定されています。「約10m」は、水平方向の隔たりです。上下方向には約80mの差があったことと、必ずセットで読む必要があります。

報告書は、回避前には両機が衝突コースにあり、A機の上昇とB機への回避指示によって、異常接近に至る前に衝突を回避できたとしています。日本の判定でいう「異常接近」には当たらないとしつつ、国際基準では「Safety not assured」に該当すると判断しました。これは、衝突の危険が生じる可能性はあったものの、急迫した危険は避けられた、という区分です。

取り違えを防ぐ確認と、食い違いが起きた後の監視・判断。その両方が、安全を支えていました。

出典:本文p.3〜4、5〜6、別添p.8。

再発防止の要点は、「何を見たか」を具体的に伝えること

報告書には、実際に取られた再発防止策も載っています。新日本航空は、教育や訓練に加え、管制官との交信で曖昧な伝達をせず、見えた先行機の型式や位置を具体的に応答することとしました。

管制側も、より確実な視認と監視を徹底するとともに、適切なタイミングで関連機の情報を付け、可能な限り詳しく伝えることを再確認しました。報告書の分析では、着陸順位・型式・位置の情報と、正確な管制用語、指示後の動きへの注意が求められています。

確認を具体的にする3つの手がかり。順番は何番目か、機体はどんな機種か、位置はどのあたりか。疑問が出たら具体的に確認する。
図4:本文p.6〜7の分析・再発防止策を、一般の読者向けに整理した図です。実際の交信例や、操作手順を示すものではありません。オチュンは記事の案内役です。

この教訓を日常の連絡に置き換えるなら、「あの資料を直して」「前の車についてきて」のような場面でも役立ちそうです。たとえば、次のように、相手が照合できる情報を足します。

曖昧になりやすい返事対象が伝わる返事の例
「資料、確認しました」「10月版の見積書、2ページ目の金額を確認しました」
「前の車、見えました」「青いワゴン車ですね。交差点の手前にいる車ですか?」

これは記事としての日常への応用です。航空の事案で実際に行われた交信ではありません。共通する工夫は、自分が何を指しているかを言葉にし、相手が一致・不一致を判断できるようにすることです。

オチュン

『伝わったかな?』と思ったら、何を見て、何を理解したかまで確かめよう。同じ相手を指していることが、確認の土台なんだね。

出典:本文p.6〜7。日常の例は筆者による応用。

3問で振り返る。取り違えを防ぐ確認クイズ

今回の事案で有効な対策を、3問で振り返りましょう。選択肢をクリックすると、正誤と理由が表示されます。

問1:「前の機体が見えた」。次に確かめたいのは?

A1機見えたので、その機体に続けばよい。

この選択肢は不正解です。

正解:B.見えた機体の型式と位置が、伝えられた情報に合っているか。

先行機は複数いる可能性があります。報告書は、見えた機体の位置と型式を、与えられた情報と照合する必要があるとしています。「見つけた」と「指定された相手だと確かめた」は別の段階です。

報告書本文p.6、3.4(2)。

B見えた機体の型式と位置が、伝えられた情報に合っているか。

正解です!

正解:B.見えた機体の型式と位置が、伝えられた情報に合っているか。

先行機は複数いる可能性があります。報告書は、見えた機体の位置と型式を、与えられた情報と照合する必要があるとしています。「見つけた」と「指定された相手だと確かめた」は別の段階です。

報告書本文p.6、3.4(2)。

C以前も同じ空港を飛んだことがあるか。

この選択肢は不正解です。

正解:B.見えた機体の型式と位置が、伝えられた情報に合っているか。

先行機は複数いる可能性があります。報告書は、見えた機体の位置と型式を、与えられた情報と照合する必要があるとしています。「見つけた」と「指定された相手だと確かめた」は別の段階です。

報告書本文p.6、3.4(2)。

問2:仲間が「あの機体、前に入りそう」と疑問を口にしたら?

Aそれまでの想定を見直し、無線での確認や位置表示などで確かめる。

正解です!

正解:A.それまでの想定を見直し、無線での確認や位置表示などで確かめる。

報告書は、担当管制官が思い込みを外し、交信や位置表示で確認していれば、取り違えに早く気付けた可能性を指摘しています。疑問は、状況の見直しにつなげるきっかけになります。

報告書本文p.6、3.4(3)。

B先ほど了解の返事があったので、今の想定を維持する。

この選択肢は不正解です。

正解:A.それまでの想定を見直し、無線での確認や位置表示などで確かめる。

報告書は、担当管制官が思い込みを外し、交信や位置表示で確認していれば、取り違えに早く気付けた可能性を指摘しています。疑問は、状況の見直しにつなげるきっかけになります。

報告書本文p.6、3.4(3)。

Cそのうち正しい順番になると考え、次の機体へ注意を移す。

この選択肢は不正解です。

正解:A.それまでの想定を見直し、無線での確認や位置表示などで確かめる。

報告書は、担当管制官が思い込みを外し、交信や位置表示で確認していれば、取り違えに早く気付けた可能性を指摘しています。疑問は、状況の見直しにつなげるきっかけになります。

報告書本文p.6、3.4(3)。

問3:指示の内容が、相手と一致しているか確かめやすいのは?

A「了解」とだけ答え、詳しい情報は省く。

この選択肢は不正解です。

正解:C.型式や位置など、見えた対象を具体的に応答し、疑問があれば確認する。

新日本航空が取った再発防止策には、曖昧な伝達をせず、視認した先行機の型式や位置を具体的に応答することが含まれています。相手が食い違いに気付ける情報を返すことが大切です。

報告書本文p.6〜7、3.4(2)・5(1)③。

B少し疑問があっても、これまでの経験どおりに進める。

この選択肢は不正解です。

正解:C.型式や位置など、見えた対象を具体的に応答し、疑問があれば確認する。

新日本航空が取った再発防止策には、曖昧な伝達をせず、視認した先行機の型式や位置を具体的に応答することが含まれています。相手が食い違いに気付ける情報を返すことが大切です。

報告書本文p.6〜7、3.4(2)・5(1)③。

C型式や位置など、見えた対象を具体的に応答し、疑問があれば確認する。

正解です!

正解:C.型式や位置など、見えた対象を具体的に応答し、疑問があれば確認する。

新日本航空が取った再発防止策には、曖昧な伝達をせず、視認した先行機の型式や位置を具体的に応答することが含まれています。相手が食い違いに気付ける情報を返すことが大切です。

報告書本文p.6〜7、3.4(2)・5(1)③。

出典と、この記事の読み方

本記事は、運輸安全委員会が2016年12月15日に公表した航空重大インシデント調査報告書 AI2016-6-1(JA8364・JA80CT)をもとに作成しました。

  • 発生:2015年10月10日16時54分、鹿児島空港の滑走路34進入端から約0.8海里、約1,500mの最終進入経路上。
  • 経過:本文p.1〜4。分析と原因:p.5〜7。実施された再発防止策:p.7。危険度の説明:別添p.8。
  • 本文に記載された「当初の異常接近報告」の時刻・場所と、調査によって特定された時刻・場所は異なります。本記事は後者を使用しています。
  • 「原因と推定」「関与した可能性」など、報告書の確かさの違いを保って記述しています。日常への応用と図解は、読者の理解を助けるための編集です。

この調査は、事故などの防止に役立てるために行われたもので、責任を問うことを目的としたものではありません。この記事も、確認の食い違いがどこで生まれ、どう気付けるかを考えるための読み物です。

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この記事を書いた人

図書館でブログを書く、とある会社の副社長。

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