2009年3月20日、大阪国際空港(伊丹空港)で、別の便への指示を取り違えた出発機が滑走路に入り、そこへ到着機が着陸しようとする事態が起きました。管制官は出発機の進入に気づかず、同じ滑走路への着陸を許可していたのです。
到着機は着陸を取りやめて上昇しました。衝突はなく、死傷者や機体の損傷もありませんでした。運輸安全委員会が「航空重大インシデント」として調査したこの出来事を、オチュンと見ていきます。
何が起き、なぜ起きたのか
空港では、管制官が無線で飛行機に移動や離着陸の許可を出します。同じ無線の周波数を使う飛行機には、ほかの便への呼びかけも聞こえます。
伊丹空港には、32Lと32Rという2本の並行する滑走路があります。この事案の中心となるのは、次の3機です。
| 飛行機 | 役割と、そのときの状況 |
|---|---|
| ANA18便 | 指示を取り違えた出発機。 32Lの手前で待機していた |
| ANA181便 | 指示の本来の相手だった出発機。 隣の32Rを使う予定だった |
| JEX2200便(ジャルエクスプレス) | 32Lへの到着機。 18便が入った滑走路へ着陸しようとしていた |
報告書が分析した流れをまとめると、次のようになります。
- 18便が指示を取り違えた。 管制官は181便に32Rへ入って待機するよう指示しましたが、18便は自分が32Lへ入ってよいと誤認しました。似た便名と「そろそろ自分の番」という期待の重なりが、背景にあった可能性が指摘されています。
- 間違った復唱が訂正されなかった。 18便は、聞いた指示を声に出して繰り返す「復唱」で、32Lに入って待つと伝えました。しかし181便の復唱と重なり、管制官には181便の声しか明瞭に聞こえませんでした。18便は訂正がないため、許可を得たと確信して32Lへ入りました。
- 管制官が18便の進入を見落とした。 管制官は、指示していない18便は動かないだろうと想定し、その動きを確認しませんでした。18便の進入に気づかないまま、2200便に同じ32Lへの着陸を許可しました。
2200便からの確認と地上管制官からの指摘をきっかけに、食い違いがわかりました。管制官は2200便に、着陸を取りやめて上昇する「復行」を指示しました。18便は離陸操作を始めていませんでした。
似た便名による取り違えに、無線で訂正できなかったことと、滑走路上の動きの見落としが重なった。 これが、この事案の大まかな構図です。

落とし穴① 似た呼び名を自分への呼びかけだと思った
無線では、飛行機を呼ぶための名前を「コールサイン」といいます。このときの呼び方は、次のようによく似ていました。
- 18便:All Nippon one-eight(オール・ニッポン・ワン・エイト)
- 181便:All Nippon one-eight-one(オール・ニッポン・ワン・エイト・ワン)
違いは、最後の「ワン」がひとつあるかどうかです。
しかも18便の乗員にとって、呼びかけのタイミングにも意味がありました。先に着陸した別の飛行機が目の前を通り、「その後なら、自分たちを滑走路に入れてもらえるかもしれない」と期待していたところだったのです。
そこへ、実際には181便に向けた「離陸の準備はできていますか」という確認が入ります。報告書は、似た呼び名とこのタイミングが重なり、18便側が自分への確認だと受け取った可能性を挙げています。
この重なりは、似たコールサインと、「そろそろ自分の番」という期待の2つで考えるとわかりやすくなります。期待に引っぱられて聞き取ってしまうことを「ウィッシュフルヒアリング」と呼ぶことがあります。ただし、これは仕組みを説明するための言葉で、報告書が本件の原因名として使ったものではありません。

18便の操縦室内の声が無線と重なり、聞き取りを妨げた可能性も指摘されています。181便の存在を知らせる、それ以前の無線のやり取りも聞き取れていませんでした。
オチュンさらに、18便が待っていた場所からは、隣の滑走路がほぼ後ろ側になり、181便を目で確かめにくい位置関係でした。耳からも目からも、「よく似た名前の別の飛行機がいる」という手がかりをつかめていなかったのです。
落とし穴② 2機の返事が重なっても雑音に気づけなかった
管制官の準備確認に対し、18便と181便が同時に返事をしました。
続く「181便、32Rに入って待機」という指示に対しても、2機は同時に復唱しました。
ところが、2機の復唱の中身は違っていました。
- 181便側の復唱:32Rに入って待機する
- 18便側の復唱:32Lに入って待機する
この日本語は、交信記録の内容を読みやすく要約したものです。実際の交信は英語で行われています。


「違う滑走路を復唱したなら、管制官が訂正できたのでは?」と思いますよね。
ここで重要なのが、18便の声が、管制官には聞き取れていなかったことです。
調査では、2回の返事はどちらも、2機がまったく同時に話し始め、同時に終わっていました。管制側の記録には181便の声が明瞭に残り、大きな音量で詳しく調べると、別の弱い声が混ざっていることがわかりました。通常の音量では、混信に気づきにくい状態だったのです。
報告書は、受信した電波の強さに差があり、18便の声が埋もれたと考えています。ただし、なぜその強さの差が生まれたのかは特定されていません。
無線が重なれば、必ず「ガーッ」というわかりやすい雑音になる、と考えることはできません。このとき管制官には、181便から普通に返事が来たように聞こえていました。
落とし穴③ 訂正がないことを確認できた証拠にした
一方、18便の操縦室では、自分たちの返事がヘッドホンから聞こえていました。話した本人に自分の声を返す音を「サイドトーン」といいます。
しかし、自分のヘッドホンで声が聞こえることと、相手がその声を聞き取れたことは、別の出来事です。
18便側は、自分たちが返事をしたことを確認し、管制官からも訂正がなかったため、指示は自分たちに出されたものだと確信していきました。
管制官側は、181便の正しい復唱を聞いていました。18便が間違った内容を復唱していること自体に気づけず、訂正することができなかったのです。
| 18便側の受け止め方 | 管制官側で起きていたこと |
|---|---|
| 自分たちが返事をした | 181便の返事が明瞭に聞こえた |
| 2回とも訂正されなかった | 18便の送信を聞き取れていなかった |
| 自分たちは滑走路に入ってよい | 18便は手前で待っていると想定していた |
こうして、双方が違う状況を思い描いたまま、18便は32Lへ動き始めました。
管制官にも、「自分が進入を指示していない18便は動かないだろう」という想定がありました。報告書は、その想定から18便の動きを確認せず、進入に気づかないまま着陸許可を出したと分析しています。



食い違いを表に出した到着機からの確認
32Lへ近づいていた2200便の乗員は、着陸許可を受けたのに、滑走路に入る飛行機が見えることを疑問に思いました。そして、管制官にその状況を伝え、着陸許可が正しいかを確認しました。
同じころ、隣の席の地上管制官からも、飛行機が滑走路に入っているという指摘がありました。
その後の流れを、記録に沿って並べてみましょう。


| 時刻 | 起きたこと |
|---|---|
| 09:20:35 | 2200便に32Lへの着陸許可 |
| 09:20:42 | 2200便が滑走路上の飛行機を伝え、許可を確認 |
| 09:20:47 | 管制官が181便への離陸許可を取り消し、待機を指示 |
| 09:20:54 | 2200便に復行を指示 |
| 09:20:59 | 18便にも滑走路上での待機を指示 |
| 09:21:00 | 2200便が上昇を開始 |
181便を先に止めたのは、復行する2200便と空中で接近する可能性を避けるためだったと報告書は分析しています。18便は滑走路に入りましたが、離陸操作は始めていませんでした。
ここで、「衝突寸前だった」と受け取らないことも大切です。2200便が上昇を始めたとき、18便との距離は約5.0kmありました。報告書の滑走路誤進入の危険度評価は、衝突回避のための時間や距離が十分にあった区分Cです。
それでも、別々だった認識を結び直した確認には、大きな意味がありました。目の前の状況と指示が合わないとき、疑問を言葉にすることで、見えていなかった食い違いが表に出たのです。
この報告書が教える伝達の工夫
この出来事を、「聞き間違えた人が、もっと注意すればよかった」で終わらせることはできません。報告書は、呼び名、聞き取り、同時送信、思い込み、安全確認など、複数の要因が重なったとしています。
報告書が挙げる対策には、似た呼び名があることを関係者に知らせる、呼び名や滑走路名を明瞭に区切る、双方が聞き取れなかった交信はすぐ確認する、といったものがあります。人の注意だけに頼らず、滑走路の状態を灯火で示す設備などの支援も有効としています。
なお、当時の対策で使われていた「似た便名」の定義には、今回のような2桁と3桁の組み合わせが含まれていませんでした。報告書には、発生後にその定義が見直されたことも記されています。これは報告書に記載された当時の対策です。
ここからは、日常の連絡に置き換えて考えてみましょう。航空の交信手順そのものではなく、この記事からの応用です。
- 呼びかける相手をはっきりさせる。 似た名前の人がいるなら、名字だけでなく、担当やフルネームも添える。
- 確認するときは、受け取った内容を具体的にする。 「了解」だけで済ませず、「明日の15時、会議室Aですね」と、取り違えやすい部分を言葉にする。
- 返事がないことだけで判断しない。 大事な変更で返答がないなら、相手が確認できたかを改めて確かめる。
- 状況と連絡が合わなければ、その違いを伝える。 「この予定になっていますが、変更でよいですか」と確認する。
連絡した側と受け取った側が、同じ内容を思い描けているか。伊丹空港の18便と181便の出来事は、その確認が抜け落ちる道筋を見せてくれます。



最後に、再発防止を考える3問クイズ
今回のような取り違えや見落としを減らすために、どんな行動が役立つでしょうか。各問、最も適切な選択肢を1つ選んでください。選択肢をクリックすると、正解と解説が開きます。
問1:似た便名があるとき、どう伝える?
A取り違えないよう、便名の数字を省いて呼びかける。
この選択肢は不正解です。
正解:B.似た便名の存在を知らせ、便名と滑走路名を区切って明瞭に伝える。
18便と181便のように呼び名が似ていると、相手を取り違えるおそれがあります。報告書は、関係する機体に似たコールサインの存在を知らせることと、呼び名・滑走路名を明瞭に区切り、聞き取りやすい速度で伝えることを挙げています。
報告書 本文25ページ、3.3.3・3.3.4節
B似た便名の存在を知らせ、便名と滑走路名を区切って明瞭に伝える。
正解です!
正解:B.似た便名の存在を知らせ、便名と滑走路名を区切って明瞭に伝える。
18便と181便のように呼び名が似ていると、相手を取り違えるおそれがあります。報告書は、関係する機体に似たコールサインの存在を知らせることと、呼び名・滑走路名を明瞭に区切り、聞き取りやすい速度で伝えることを挙げています。
報告書 本文25ページ、3.3.3・3.3.4節
C忙しいときは、便名と滑走路名を続けて素早く伝える。
この選択肢は不正解です。
正解:B.似た便名の存在を知らせ、便名と滑走路名を区切って明瞭に伝える。
18便と181便のように呼び名が似ていると、相手を取り違えるおそれがあります。報告書は、関係する機体に似たコールサインの存在を知らせることと、呼び名・滑走路名を明瞭に区切り、聞き取りやすい速度で伝えることを挙げています。
報告書 本文25ページ、3.3.3・3.3.4節
問2:指示の相手や滑走路名が、はっきり聞き取れなかったら?
A一度復唱し、訂正されなければ自分への許可だと判断して動き始める。
この選択肢は不正解です。
正解:C.動き始める前に、誰への指示か・どの滑走路かを管制官に確認する。
今回、18便は復唱しても管制官に聞き取られておらず、訂正もされませんでした。自分の声が聞こえることや訂正がないことだけでは、伝わった証拠になりません。報告書は、交信内容を正確に把握できなかった場合、直ちに管制官に確認すべきだとしています。
報告書 本文22ページ、3.2.3節/本文24〜25ページ、3.3.2節
B自分の声がヘッドホンで聞こえたら、管制官にも届いたと判断する。
この選択肢は不正解です。
正解:C.動き始める前に、誰への指示か・どの滑走路かを管制官に確認する。
今回、18便は復唱しても管制官に聞き取られておらず、訂正もされませんでした。自分の声が聞こえることや訂正がないことだけでは、伝わった証拠になりません。報告書は、交信内容を正確に把握できなかった場合、直ちに管制官に確認すべきだとしています。
報告書 本文22ページ、3.2.3節/本文24〜25ページ、3.3.2節
C動き始める前に、誰への指示か・どの滑走路かを管制官に確認する。
正解です!
正解:C.動き始める前に、誰への指示か・どの滑走路かを管制官に確認する。
今回、18便は復唱しても管制官に聞き取られておらず、訂正もされませんでした。自分の声が聞こえることや訂正がないことだけでは、伝わった証拠になりません。報告書は、交信内容を正確に把握できなかった場合、直ちに管制官に確認すべきだとしています。
報告書 本文22ページ、3.2.3節/本文24〜25ページ、3.3.2節
問3:着陸を許可する前、管制官は何を確かめる?
A待機中の機体の動きも含め、滑走路全体に目を運んで安全を確認する。
正解です!
正解:A.待機中の機体の動きも含め、滑走路全体に目を運んで安全を確認する。
管制官は、指示していない18便は動かないだろうと想定し、その進入を見落としました。報告書は、忙しいときも滑走路の端から端へ確実に目を運び、安全を確認する基本動作を重視しています。「待っているはず」という想定を、実際の状況と照らし合わせることが大切です。
報告書 本文23ページ、3.2.4節/本文24ページ、3.3.1節
B直前に着陸した機体が滑走路を離れたことだけを確認する。
この選択肢は不正解です。
正解:A.待機中の機体の動きも含め、滑走路全体に目を運んで安全を確認する。
管制官は、指示していない18便は動かないだろうと想定し、その進入を見落としました。報告書は、忙しいときも滑走路の端から端へ確実に目を運び、安全を確認する基本動作を重視しています。「待っているはず」という想定を、実際の状況と照らし合わせることが大切です。
報告書 本文23ページ、3.2.4節/本文24ページ、3.3.1節
C進入を指示していない機体は動かないと考え、到着機に注意を集中する。
この選択肢は不正解です。
正解:A.待機中の機体の動きも含め、滑走路全体に目を運んで安全を確認する。
管制官は、指示していない18便は動かないだろうと想定し、その進入を見落としました。報告書は、忙しいときも滑走路の端から端へ確実に目を運び、安全を確認する基本動作を重視しています。「待っているはず」という想定を、実際の状況と照らし合わせることが大切です。
報告書 本文23ページ、3.2.4節/本文24ページ、3.3.1節
出典と図解について
出典は、運輸安全委員会の航空重大インシデント調査報告書 AI2010-7-1です。発生日は2009年3月20日、公表日は2010年11月26日です。
「ウィッシュフルヒアリング」という用語については、航空安全情報自発報告制度VOICESの2016年度提言も参照しました。この提言に挙がる事例は、本記事の伊丹空港の事案とは別です。
- 出来事と時刻:本文1〜6ページ、付図1-1、別添1
- 交信の重なりと電波の強さの差:本文16〜18ページ、21〜22ページ
- 聞き間違い、期待、双方の認識:本文20〜24ページ、26〜28ページ
- 再発防止策と危険度:本文24〜26ページ、28〜30ページ
ページ番号はPDF閲覧ソフトの通し番号ではなく、報告書に印刷された本文の番号です。記事中の管制指示の日本語表現は説明用の要約です。オチュンの発言は解説用の創作であり、当事者の発言ではありません。図解は提供されたオチュンの画像を参考にAIで制作した説明用イメージです。

コメント