2008年2月16日、雪の新千歳空港で、滑走路上に別の飛行機が残っているのに、離陸許可を受けていない旅客機が走り始めました。管制官の停止指示を受け、旅客機は離陸を中止。両機にけが人はありませんでした。
きっかけになったのは、これからの離陸に備えるよう伝えた情報を、今すぐ離陸してよいという許可と取り違えたことでした。しかも、操縦室にいた3人の受け止め方は同じではありません。疑問を感じた人もいましたが、それが確認や助言につながりませんでした。

オチュンと一緒に、予告と許可の違い、確認の言葉、そして疑問を言えるチームづくりを見ていきましょう。
出典:運輸安全委員会 航空重大インシデント調査報告書 AI2009-1 第Ⅱ編 本文p.1、38。発生は2008年2月16日、公表は2009年1月23日です。以下、ページ番号は紙面の本文ページ番号を示します。
滑走路で待つ許可と離陸の許可は別だった
舞台は、新千歳空港の滑走路01R、通称B滑走路です。当日は積雪などのため、もう1本のA滑走路や複数の誘導路が閉鎖され、離着陸をB滑走路で行っていました。
| 飛行機 | この事案での役割 |
|---|---|
| A機 日本航空502便 B747-400D JA8904 | 新千歳から羽田へ向かう出発機。滑走路に入り、離陸許可を待っていた。 |
| B機 日本航空2503便 MD-90-30 JA8020 | 関西空港から到着。着陸後、滑走路を走行し、出口へ向かっていた。 |
| C機 日本航空513便 B747-400D JA8907 | 次に着陸するため、新千歳空港へ接近していた。 |
A機は、B機が着陸した後、管制官から滑走路に入って待つ指示を受けていました。滑走路へ入ったこと自体は指示に従った行動です。しかし、そこから離陸滑走を始めるには、離陸許可を受ける必要がありました。
降雪で見通しは悪く、A機の乗員には、前方のB機がまだ滑走路上にいることが見えていなかったと報告書は推定しています。B機も、滑りやすい路面と限られた見通しの中、慎重にゆっくり走行していました。
離陸という単語があっても許可とは限らない
10時32分30秒、管制官はA機に、次の表現を含む情報を伝えました。
EXPECT IMMEDIATE TAKE-OFF
報告書の訳では「迅速な離陸を予期せよ」。この後に、着陸した機体がまだ滑走路上を走行していることと、次の到着機が6海里の位置にいることも伝えています。管制官は、離陸許可を出した後、すぐに対応が必要になる状況を理解してもらおうとしていた、と報告書は分析しています。
一方、報告書に記載された、迅速な離陸を許可する表現の例は、こちらです。
CLEARED FOR IMMEDIATE TAKE-OFF
最初が「これからに備える情報」なのか、「実行を許可する言葉」なのかで、意味が変わります。今回、離陸の許可は出ていませんでした。

では、なぜ管制官が予告に「TAKE-OFF」を使ったのでしょうか。報告書によると、操縦士側の資料などでは、この用語は通常、離陸許可とその取り消し以外に使わないとされていました。しかし、その使用制限が当時の管制方式の規程に記載されておらず、担当管制官には、その言葉が誤認を招くおそれについての認識がありませんでした。
同じ言葉の使い方について、送る側と受け取る側の前提がずれていたのです。報告書は、今回の予告には「TAKE-OFF」ではなく「DEPARTURE」という用語を用いるべきだったとしています。
オチュン出典:報告書 本文p.4、14〜15、33〜34、38。ここでの用語の説明は、報告書が扱った当時の資料と分析に基づきます。
了解という返事だけでは認識の違いが見えなかった
A機が返したのは、ROGER, JAPAN AIR 502という応答でした。自分の便名を付けて受信したことは伝えていますが、離陸許可の内容を言い直す復唱にはなっていませんでした。
機長は、離陸許可を受けたと確信していました。訓練生が内容を復唱しなかったことには気付いていたものの、「IMMEDIATE」という言葉から迅速な離陸が求められていると考え、操作を始めることを優先したと報告書は分析しています。
もし、受け取ったと考えた許可の内容を復唱していれば、他の乗員や管制官が食い違いに気付き、再確認できた可能性があると報告書は指摘しています。返事があったかだけでなく、何を受け取ったと考えているかが伝わる確認が必要だったのです。
ここで、経過を短く並べてみましょう。時刻はすべて日本時間です。
| 時刻 | 主な出来事 |
|---|---|
| 10時28分40秒 | A機に、滑走路01Rへ入って待機する指示。 |
| 10時32分30秒 | 迅速な離陸を予期するよう伝える情報を通報。離陸許可はなし。 |
| 10時32分37秒 | A機が、ROGERと便名で応答。 |
| 10時32分43秒 | A機の速度が増加し始める。 |
| 10時32分59秒 | 管制官が、直ちに停止するよう2回指示。 |
| 10時33分12秒 | 接近していたC機に、着陸をやり直す指示。 |
出典:報告書 本文p.3〜4、29〜31、35〜36、別添1。表の通報時刻は送信の開始時刻です。10時32分30秒の通報は約6秒間続いています。
雪と待ち時間が判断に影響した
当時の交信状態は正常でした。雪が大きく影響したのは、見通しや路面の状態、そして運航に必要な作業の負担です。
報告書は、機長に通常より大きな負荷を与え得る条件として、寒冷時の追加手順、滑りやすい路面、訓練生への教育や評価を挙げています。さらに、出発の遅れや長い待ち時間、防氷液が機体を保護できる時間の目安、接近する後続機との間隔なども、時間管理の負担になった可能性があるとしています。
こうした中、機長は、次に来る通報は離陸許可だろうと予期する状態になっていたと分析されています。報告書が「構え」と呼ぶ心理状態です。予想していた内容に合う言葉が聞こえると、それを手掛かりに意味を受け取ってしまった可能性があります。
通報が終わる前にエンジンの出力を上げる操作が始まり、注意が計器へ向いたことや、一度の交信に3機分の情報が含まれ、送信速度も速かったことも、聞き取りに関わる要因として挙げられています。ただし、当時の操縦室内の録音は上書きされて残っておらず、正確に聞き取れなかった要因を特定することはできなかったと報告書は述べています。
出典:報告書 本文p.13、15、28〜30。背景には、推定された事項と、可能性として挙げられた事項があります。
3人の認識をそろえる確認が働かなかった
A機の操縦室には、機長、右側の操縦席にいた訓練生、後方の席にいた副操縦士の3人がいました。報告書を読むと、3人とも離陸許可だと納得していた、という状況ではなかったことがわかります。


訓練生は「CLEARED FOR」を聞いておらず、報告書は、離陸許可を受けたとは認識していなかったと考えています。それでも、機長が離陸操作を始めた際に、許可を受けていない旨を指摘できませんでした。副操縦士も言い回しに疑問を感じていましたが、考えを巡らせる間に操作が進み、再確認を助言できなかったとされています。
報告書は、訓練生の経験の少なさや、機長から評価を受ける立場であること、機長の操作が迅速だったことなどを背景として考察しています。そして、機長に積極的に助言できる体制が十分に確立されていなかったことを指摘しました。
このように、乗員や情報、機器などを生かし、チームで安全を守る考え方や実践を「CRM」と呼びます。報告書が求めたのは、訓練生を含む他の乗員が、機長の判断に疑問を持ったとき、速やかに助言しやすい環境を整えることでした。
同社がその後、訓練生にも路線訓練の前にCRMの導入訓練を行うよう見直したことも、報告書に記されています。確認の手順を定めることに加え、その場で実際に言えるようにすることが改善の対象になったのです。



出典:報告書 本文p.17、31〜33、36、39〜41。改善措置は、報告書に記載された当時の対応です。
管制官の監視により接近は防げた
管制官も、雪で滑走路上の航空機を直接見ることができませんでした。そこで、地上の航空機や車両の動きを捉えるレーダーの表示を使って、位置や動きを確認していました。
A機が動き始めたことを表示で確認した管制官は、直ちに停止を指示しました。A機はエンジンの出力を落とし、ブレーキや逆噴射などを用いて離陸を中止します。報告書は、この指示と乗員の離陸中止の手順が的確に実施され、B機への異常な接近を回避できたと推定しています。
A機の速度は、停止指示の後、最大約84ノット、時速約156kmに達してから低下しました。停止指示が出た瞬間に止まったわけではなく、減速のための動作と時間が必要だったことがわかります。後ろから着陸へ向かっていたC機には、復行、つまり着陸をやり直す指示が出されました。
A機の446人、B機の126人に負傷者はありませんでした。報告書が推定した両機の最接近時の直線距離は約1,800mです。また、ICAOの危険度分類では、衝突回避に十分な時間や距離があったとするCランクに分類しています。この距離や分類も踏まえ、使用中の滑走路で許可のない離陸滑走が始まった重大インシデントとして、何が判断を変えたのかを学べます。
出典:報告書 本文p.1、4、13、35、別添2。速度のkm/h表示は、ノットから換算した概数です。
日常の仕事でも予告と許可を分けて伝える
ここからは、この事案の学びを日常の仕事に置き換えた例です。
たとえば、メールを送る前に「すぐ送れるように準備しておいて」と頼まれたとします。この言葉を「今すぐ送信してよい」と受け取れば、確認前の文面を送ってしまうかもしれません。準備を進めることと、実行を許可されることを分けて伝えるだけで、食い違いを防ぐ手掛かりになります。


「了解です」と返すところを、「下書きを整えて待ち、送信は確認をもらってからですね」と、受け取った内容まで言葉にする。指示する側も、返ってきた内容が意図と一致しているかを確かめる。そのやり取りで、相手の頭の中にある作業を見えるようにできます。
また、経験のある人の判断に疑問が生まれたとき、「自分の聞き落としかもしれませんが、実行してよいかを確認させてください」と言えることも大切です。確認される側が、その問いを受け止めることと組み合わせて、食い違いを修正する機会が生まれます。



この事案では、言葉の使い方、予想、作業負担、乗員間の確認が重なって、誤った行動につながりました。情報を正確に伝えることと、疑問を共有して確かめることを一緒に整える。 日常にも持ち帰れる、事故調査の学びです。
日常例とオチュンのせりふは、理解を助ける創作です。実際の発言ではありません。事案の分析と対策の出典:報告書 本文p.35〜39。
理解を確かめる3問
問1 今回のEXPECT IMMEDIATE TAKE-OFFは何を伝えたものでしょう
A今すぐ離陸してよいという許可
この選択肢は不正解です。
正解:B.これからの迅速な離陸に備える情報で、離陸許可ではない
管制官は迅速な離陸を予期するよう情報を伝えました。この場面では、離陸の許可は出されていませんでした。
報告書 本文p.4、33〜34、38。
Bこれからの迅速な離陸に備える情報で、離陸許可ではない
正解です!
正解:B.これからの迅速な離陸に備える情報で、離陸許可ではない
管制官は迅速な離陸を予期するよう情報を伝えました。この場面では、離陸の許可は出されていませんでした。
報告書 本文p.4、33〜34、38。
C既に出された離陸許可の取り消し
この選択肢は不正解です。
正解:B.これからの迅速な離陸に備える情報で、離陸許可ではない
管制官は迅速な離陸を予期するよう情報を伝えました。この場面では、離陸の許可は出されていませんでした。
報告書 本文p.4、33〜34、38。
問2 操縦室の3人の認識について正しいのはどれでしょう
A訓練生や副操縦士に疑問があったが、機長への確認や助言につながらなかった
正解です!
正解:A.訓練生や副操縦士に疑問があったが、機長への確認や助言につながらなかった
訓練生はCLEARED FORを聞いておらず、副操縦士も言い回しに疑問を持っていました。報告書は、機長に助言できる体制の課題を指摘しています。
報告書 本文p.7、31〜33、38。
B3人とも同じ内容を正確に聞き、離陸許可だと確認し合っていた
この選択肢は不正解です。
正解:A.訓練生や副操縦士に疑問があったが、機長への確認や助言につながらなかった
訓練生はCLEARED FORを聞いておらず、副操縦士も言い回しに疑問を持っていました。報告書は、機長に助言できる体制の課題を指摘しています。
報告書 本文p.7、31〜33、38。
C訓練生が管制官へ離陸許可を復唱していた
この選択肢は不正解です。
正解:A.訓練生や副操縦士に疑問があったが、機長への確認や助言につながらなかった
訓練生はCLEARED FORを聞いておらず、副操縦士も言い回しに疑問を持っていました。報告書は、機長に助言できる体制の課題を指摘しています。
報告書 本文p.7、31〜33、38。
問3 日常の仕事への応用として適切なのはどれでしょう
A急ぐ指示なら、疑問があっても確認を省く
この選択肢は不正解です。
正解:C.準備の指示と実行の許可を分け、受け取った内容を言葉にして確かめる
予告と許可の区別、内容を言葉にする確認、疑問を共有できる環境が、この事案から日常へ生かせる学びです。
報告書 本文p.35〜39をもとにした日常への応用。
B経験のある人が動き始めたら、そのまま従う
この選択肢は不正解です。
正解:C.準備の指示と実行の許可を分け、受け取った内容を言葉にして確かめる
予告と許可の区別、内容を言葉にする確認、疑問を共有できる環境が、この事案から日常へ生かせる学びです。
報告書 本文p.35〜39をもとにした日常への応用。
C準備の指示と実行の許可を分け、受け取った内容を言葉にして確かめる
正解です!
正解:C.準備の指示と実行の許可を分け、受け取った内容を言葉にして確かめる
予告と許可の区別、内容を言葉にする確認、疑問を共有できる環境が、この事案から日常へ生かせる学びです。
報告書 本文p.35〜39をもとにした日常への応用。
主な資料:運輸安全委員会 航空重大インシデント調査報告書 AI2009-1 第Ⅱ編 JA8904 JA8020。図解は報告書をもとに独自に作成した説明図で、公式の図ではありません。






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