オチュンと学ぶ 飛行機雲の2つのでき方と気象への影響

青空にすうっと伸びる、飛行機の白い筋。長く残って空いっぱいに広がることもあれば、翼の近くに少しだけ現れ、すぐ消えることもあります。

どちらも飛行機がきっかけで生まれる雲ですが、できる道筋には違いがあります。この記事では、エンジンの排気からできるものと、翼のまわりの気圧低下でできるものの2つに分けて、順番に見ていきましょう。

後半では、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ後に航空便が大幅に止まった期間の研究も取り上げます。飛行機雲が少なくなった空と、昼夜の気温差には、どのような関係があったのでしょうか。

エンジンの後方にできる長い氷の雲と、翼端付近にできる短い水滴の雲をオチュンと比べる手書き風イラスト
図1 飛行機がつくる白い雲を、でき方で大きく2つに分けた模式図です。右は、湿った低い空で見られる代表的な例。どちらも、温度や湿度などの条件がそろったときに現れます。

白い筋の正体は小さな水滴や氷の粒

最初に、白く見えているものの正体を確かめましょう。水蒸気は、目に見えない気体です。空気に水蒸気が含まれていても、それだけで白く見えるわけではありません。

白い雲として見えるのは、水蒸気が変化してできた小さな水滴や氷の粒です。たくさんの粒が光をいろいろな方向に散らすため、青空の中で白く見えます。これは、自然の雲にも共通するしくみです。

冷たい日に、吐いた息が白くなることがありますね。あの白さも、水蒸気そのものの色ではなく、冷えてできた細かな水滴によるものです。空高くにできる、よく見慣れた長い飛行機雲の場合は、主に氷の粒が白い筋をつくっています。

では、目に見えない水蒸気が、どうして飛行機の近くで水滴や氷に変わるのでしょうか。まず、エンジンの排気からたどってみます。

1 エンジンの排気からできる飛行機雲

このタイプでは、燃料が燃えることで水蒸気が加わり、排気が上空の冷たい空気と混ざることが出発点です。

燃料の燃焼、水蒸気を含む排気と冷気の混合、水滴の生成、凍結を4つの場面で示す手書き風図解
図2 排気から氷の雲ができるまで。水滴や氷の粒は、しくみを説明するために大きく描いています。図の「水蒸気など」には、燃焼で生まれる二酸化炭素なども含まれます。

ステップ1 燃料が燃えて水蒸気が生まれる

ジェット機のエンジンでは、燃料を空気中の酸素と反応させて燃やしています。燃料に含まれる水素が酸素と結びつくと、水ができます。エンジンの中は高温なので、この水は主に水蒸気として排気に含まれます。

つまり、排気には熱だけでなく、雲の材料になる水蒸気も含まれているのです。

ステップ2 熱い排気が上空の冷気と混ざる

エンジンから出た直後の排気は熱く、そのまま白い氷の雲になっているわけではありません。飛行機の後ろで周囲の冷たい空気を取り込み、混ざりながら冷えていきます。

ここで大切なのは、混ざった空気の温度と、水蒸気の量の組み合わせです。温度が下がると、水滴ができ始める目安となる水蒸気の量も少なくなります。混ざった空気の水蒸気がその目安を超えると、小さな水滴ができやすくなります。

そのため、十分に冷たい上空で混合が進むと、雲が生まれる条件に近づきます。ただし、気温だけで一律に決まるものではなく、気圧や湿度、エンジンの特性なども関係します。

ステップ3 水蒸気が小さな水滴になる

空気中の水蒸気が、液体の水に変わることを凝結(ぎょうけつ)といいます。

排気や周囲の空気にある微粒子が足がかりとなり、そのまわりに小さな水滴ができます。エンジンから出るすすなどの粒も、こうした足がかりになります。白い筋は、すすそのものが白く見えているのではありません。

ステップ4 水滴が凍って氷の粒になる

飛行機が高く飛ぶ空は非常に冷たいため、できた水滴はすぐに凍り、小さな氷の粒になります。この氷の粒を氷晶(ひょうしょう)と呼びます。

細かな氷晶が集まって光を散らすと、私たちの目には白い雲として見えます。これが、エンジンの後方に伸びる飛行機雲の基本的なでき方です。

ステップ5 飛行機が進むことで白い筋が続く

飛行機が進みながら同じ過程を繰り返すと、通り道に沿って新しい雲が次々に生まれます。そのため、点ではなく、長い線の形になります。

排気が冷え、水滴や氷晶ができるまでには少し時間がかかるので、エンジンと白い筋の間に、透明なすき間が見えることもあります。エンジンの出口から白い煙をそのまま引き延ばしたもの、というわけではないのです。

オチュン

燃える → 水蒸気が加わる → 冷気と混ざる → 水滴 → 氷の粒。順番につなげると、白い筋の正体が見えてくるね。

2 翼のまわりの気圧低下でできる飛行機雲

もう1つは、翼のまわりの空気の流れがきっかけになるものです。ここでは、もともと空気に含まれていた水蒸気が、局所的な冷却によって水滴になります。湿った日の離陸や着陸で見られる、短い白い筋を考えましょう。

湿った空気、翼付近の気圧低下、膨張による冷却、水滴の生成を4つの場面で示す手書き風図解
図3 翼の上面や、翼端などにできる渦の中では、気圧と温度が局所的に下がります。丸や点は空気と水蒸気を表す説明用の記号で、実際の水蒸気が青い点として見えるわけではありません。

ステップ1 もともと湿った空気の中を飛ぶ

空気には、雲がなくても水蒸気が含まれています。湿った空気では、少し冷えるだけで水滴ができる条件に近づくことがあります。

この段階では、水蒸気はまだ気体です。空気が透明でも、雲になる材料はすでに存在しています。

ステップ2 翼の近くで気圧が下がる

飛行機の翼は、まわりの空気の流れを変えます。その結果、翼の上面の一部や、翼の先端・フラップの端から伸びる渦の中などに、周囲より気圧の低い場所ができます。フラップは、離着陸などで使う、翼の後ろ側の動く部分です。

翼の先端にできる渦を翼端渦(よくたんうず)といいます。ただし、渦そのものが白いわけではありません。渦は空気の流れであり、白く見えるには、この先の水滴ができる過程が必要です。

ステップ3 空気が膨らんで冷える

流れに沿って気圧が急に下がる場所では、空気は膨張し、温度が下がります。短い時間の変化なので、まわりと熱をやり取りする影響は小さくなります。

このように、外との熱の出入りがほとんどないまま、空気が膨らんで冷えることを断熱冷却(だんねつれいきゃく)と呼びます。冷たい物に触れて熱を奪われる場合とは、冷え方の道筋が違います。

ステップ4 水蒸気が水滴になって白く見える

空気が十分に冷えると、水蒸気が凝結して、細かな水滴になります。水滴が光を散らすため、翼の上に薄い白いベールがかかったり、翼端やフラップ付近から細い白い筋が伸びたりします。

ここでは、エンジンの燃焼で水蒸気を補うことが必要なのではなく、もともとある水蒸気を、気圧低下に伴う冷却で水滴に変えることが中心です。

ステップ5 条件が戻ると水滴は消えやすい

空気が低圧の部分を通り過ぎ、気圧が戻ったり、周囲の空気と混ざったりすると、水滴ができ続ける条件は失われやすくなります。すると水滴は再び蒸発し、見えなくなります。

このため、低い空で見られる翼端付近の白い筋は、短く、すぐ消えるものが多いのです。一方、翼端渦という空気の流れは、白い筋が見えなくなった後も残ることがあります。

2つのでき方を比べて整理する

2つの違いは、水蒸気がどこから来て、何がきっかけで冷えるかに注目すると整理できます。

表は横にスクロールできます。

比べる点エンジンの排気からできるもの翼のまわりでできるもの
主な出発点燃焼で水蒸気を含む排気が出る翼のまわりで空気の流れが変わる
冷えるきっかけ熱い排気が上空の冷気と混ざる局所的な気圧低下に伴って空気が膨張する
水の材料排気の水蒸気。成長時には周囲の水蒸気も加わるもともと周囲の空気に含まれる水蒸気
白い粒の代表例高い空では主に氷晶低い空の離着陸では主に水滴
現れやすい位置エンジンの少し後ろ翼の上面、翼端やフラップ付近
その後の姿条件によって、すぐ消える場合も長く残る場合もある低い空では、短時間で消える例が多い

これは代表的な場面の比較です。十分に冷たい高い空では、翼のまわりでできた雲も凍り、条件によって残る場合があります。「排気なら長い」「翼なら必ずすぐ消える」と、長さだけで決めつけないようにしましょう。

なお、資料によっては「飛行機雲」という言葉を主に排気由来のものに使い、翼端などの白い筋は別に説明しています。この記事では、飛行機がつくる白い雲を、でき方から広く比べています。

飛行機雲がすぐ消える日と長く残る日の違い

ここからは、主に高い空にできる、氷晶の飛行機雲を考えます。生まれた直後の雲が、その後も残れるかどうかは、飛行機の飛ぶ高さの空気に大きく左右されます。地上が蒸し暑いかどうかだけでは判断できません。

周囲が乾いていると氷晶は水蒸気に戻る

周囲の空気が氷晶の成長に必要なほど湿っていない場合、氷晶は小さくなっていきます。氷が液体を経ず、直接水蒸気になる変化を昇華(しょうか)といいます。粒がなくなれば、白い筋も消えます。

上空は氷点下のままでも、この変化は起こります。「氷が暖められてとけたから消える」とは限りません。

周囲に水蒸気が十分あると氷晶は育つ

反対に、周囲に氷晶を成長させられるほど水蒸気があると、氷晶はその水蒸気を取り込んで育ち、長く残れます。専門的には、氷に対して過飽和の状態です。今の温度で氷とつり合う量を超える水蒸気があり、氷が成長できる状態、と考えてください。

したがって、大きく広がった飛行機雲の水が、すべて燃料から生まれたわけではありません。きっかけをつくったのは飛行機でも、成長の材料には周囲の大気の水蒸気も使われています。

風が引き伸ばすと広い薄雲になる

長く残る飛行機雲は、場所や高さによって違う風に引き伸ばされ、幅が広がることがあります。やがて筋の形が分かりにくくなり、自然の巻雲に似た薄い雲になることもあります。

長く残る飛行機雲は、上空が湿っている手がかりにはなります。ただし、それだけで「明日は必ず雨」とは言えません。地上の天気を考えるには、低気圧や前線の動きなども見る必要があります。

オチュン

「できる条件」と「長く残る条件」を分けて考えよう。生まれた後に育てるかどうかは、周りの空気も大切なんだね。

飛行機雲は太陽光と赤外線の通り方を変える

長く残り、広がった飛行機雲は、地球に入るエネルギーと、宇宙へ出ていくエネルギーの両方に関わります。ここでは、日射と赤外線を分けて考えましょう。

昼の飛行機雲による太陽光の一部の反射と、昼夜を通じた赤外線の吸収と放出を比べる手書き風模式図
図4 熱の出入りを示す模式図で、特定の日の実測結果ではありません。黄色は太陽光、赤色の波線は赤外線です。昼にも赤外線への作用があり、「昼なら必ず冷やす」という意味ではありません。

昼は太陽光の一部を宇宙へ反射する

太陽から届いた光の一部は、飛行機雲によって宇宙側へ反射されます。その分、地表に届く日射を弱める方向に働きます。これは、地球を冷やす側の作用です。

ただし、飛行機雲は薄いものも多く、太陽光をすべて遮るわけではありません。雲の厚さや、太陽の高さなどで、反射する量は変わります。

昼も夜も赤外線を吸収して放出する

地表や大気は、昼夜を問わず、赤外線としてエネルギーを放出しています。飛行機雲は、その一部を吸収し、自らも上向きや下向きに赤外線を放出します。宇宙へ逃げるエネルギーを減らし、地球を暖める方向に働きます。

夜には太陽光の反射による冷却作用がなくなり、赤外線に対する作用が中心になります。昼は、太陽光への作用と赤外線への作用が同時にあります。

2025年の米国科学・工学・医学アカデミーズの報告は、長く残る飛行機雲と、それが広がった巻雲の影響を、世界全体で平均すると温暖化の方向と整理しています。一つひとつの雲の影響は条件によって違い、その大きさには不確かさもあります。

2001年9月11日後のアメリカで何が観測されたのか

2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生し、多くの尊い命が失われました。事件後には民間航空の運航が大幅に止まり、普段より飛行機雲の少ない期間が生じました。この期間の観測記録は、飛行機雲と気象の関係を調べる研究にも使われました。

ただし、すべての飛行機雲がなくなったわけではありません。NASAの研究では、9月12日に一部の軍用機がつくった飛行機雲も解析されています。また、民間便は9月13日から段階的に再開されたため、「全便が丸3日間、完全に止まった」と単純化しないことも大切です。

ステップ1 研究者は昼夜の気温差に注目した

調べられた指標の1つが、日較差(にちかくさ)です。基本的には、1日の最高気温から最低気温を引いた値を指します。

例えば、最高気温が25℃、最低気温が15℃なら、日較差は10℃です。最高気温が26℃、最低気温が14℃なら、日較差は12℃になります。この2つの例では、最高・最低の中間は同じ20℃でも、気温の振れ幅は違います。これは言葉の説明のための例で、事件当時の観測値ではありません。

飛行機雲が日射を弱めたり、夜の冷え込みを弱めたりするなら、その減少に伴って日較差が大きくなる可能性があります。研究者たちは、この考えを観測記録で確かめようとしました。

ステップ2 2002年の研究で約1.1℃の差が報告された

Travis(トラビス)らが2002年に発表した研究では、9月11〜14日のアメリカ本土48州の観測を分析し、日較差が1971〜2000年の同時期の平均より約1.1℃大きかったと報告しました。研究者たちは、飛行機雲の減少が、この異常の少なくとも一部に関係したと解釈しました。

ここでいう約1.1℃は、平均気温が1.1℃上がったという意味ではありません。比較しているのは、昼夜の気温の振れ幅です。また、直前の数日と比べた単純な気温上昇でもありません。

研究では航空便が大幅に減った時間帯に合わせ、例えば「9月11日の最高気温−9月12日の最低気温」のように、隣り合う日の昼と夜を組み合わせて計算しています。比較対象の過去年も、同じ方法で計算されました。

ステップ3 後の研究で自然の雲や天候の影響が検討された

同じ期間には、飛行機雲だけでなく、自然の雲の量、湿度、風、流れ込む空気の性質なども変わっています。晴れて乾いた空気に覆われれば、それだけでも昼は暖まりやすく、夜は冷えやすくなる場合があります。

Hong(ホン)らの2008年の研究は、観測データと雲量を調べ、当時の日較差の増加は、低い雲の変化などで説明できると指摘しました。Dietmüller(ディートミュラー)らの2008年の研究も、気候モデルと長期データを使って再検討し、飛行機雲の減少が日較差を大きくしたという仮説には、十分な統計的裏付けがないと結論づけました。

このため、「飛行機雲が減った時期に日較差が大きかった」という観測と、「その増加に飛行機雲の減少がどれだけ関係したか」という原因の判断は、分けて考える必要があります。

ステップ4 短期間の気温変化と世界の気候を分けて考える

この事例から、「飛行機雲が消えたため、アメリカの日較差が1.1℃大きくなった」と原因まで断定することはできません。短い期間の観測では、自然の天候の変化から飛行機雲の影響をはっきり取り出すことが難しいためです。

一方で、この難しさは、飛行機雲が太陽光や赤外線の通り方を変えるしくみまで否定するものではありません。ある数日間の地上の気温を説明することと、世界全体の長期的なエネルギー収支を評価することは、関係しながらも違う問いなのです。

9月11日後の研究は、飛行機雲と気象の関係を考える上で知られた事例です。最初の報告だけでなく、その後の再検証まで一緒に読むことで、観測から何が言えて、どこまで原因を絞れるのかが見えてきます。

4つの確認問題でしくみを振り返る

第1問 白い飛行機雲は水蒸気そのものの色である

答えは×です。水蒸気は目に見えません。白く見えるのは、水滴や氷晶が光を散らすためです。高い空の排気由来の飛行機雲は、主に氷晶でできています。

第2問 翼端の白い筋にも燃焼で増えた水蒸気が必ず必要か

必ず必要ではありません。翼のまわりでは、もともと空気にある水蒸気が、気圧低下に伴う冷却で凝結します。湿度などの条件がそろうことが必要です。

第3問 上空が氷点下でも飛行機雲は消えるか

消えます。周囲が氷晶の成長に必要なほど湿っていなければ、氷晶が直接水蒸気に戻る昇華によって、小さくなり、見えなくなります。

第4問 9月11日後の約1.1℃は何と何を比較した値か

2002年の研究で報告された、2001年9月11〜14日の日較差と、1971〜2000年の同時期の平均日較差との差です。平均気温の上昇量ではなく、増加の原因を飛行機雲だけに断定することもできません。

空の白い筋を見たら生まれた場所と残り方を観察する

次に飛行機を見かけたら、白い雲がエンジンの後ろにあるのか、翼の近くにあるのかを探してみましょう。その後、すぐ消えるのか、長く残って広がるのかも観察してみてください。

排気から加わった水蒸気が冷気と混ざって雲になる道筋。もともとあった水蒸気が、翼のまわりの気圧低下で雲になる道筋。どちらも、水が状態を変えるしくみと、空気の温度・湿度を結びつけると理解できます。

細い白い筋には、エンジンの燃焼、空気の流れ、水の状態変化、そして地球の熱の出入りまでつながっています。空を見上げるいつもの時間が、気象をひとつずつ確かめる時間になりますね。

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出典と参考資料

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この記事を書いた人

図書館でブログを書く、とある会社の副社長。

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