世界の政府専用機を見くらべよう 空飛ぶ仕事場の特徴と歴史

世界の政府専用機の表紙。アメリカのVC-25Aと日本の777、旅のノートを持つオチュンを描いた手描き風イラスト
大きなジャンボも、小さな専用機も。国のリーダーを乗せる飛行機には、それぞれの仕事があります。

ニュースで、飛行機のドアから大統領や首相が現れる場面を見たことはありませんか。

階段の上で手を振る人が主役に見えますが、今日は、その後ろにいる飛行機のほうが主役です。

アメリカの飛行機は、機内で国を動かすための設備が充実。イギリスには、要人を運ぶだけでなく、ほかの飛行機へ燃料を渡せる一機もあります。日本とインドは、なんと同じ「777」の仲間を使用。ブラジルとイタリアでは、ぐっと小さなA319系も活躍。フランスのトリコロール、カナダの世代交代、ロシアの国産4発機、中国のエア・チャイナ塗装にも、それぞれの物語があります。

名前や数字を覚える必要はありません。「この飛行機は、どんな仕事が得意なんだろう」。オチュンと一緒に、世界11か国の空飛ぶ仕事場をのぞいてみましょう。

オチュン

首相や大統領の飛行機って、全部ジャンボだと思ってた! 国によって、こんなに違うんだね。

目次

政府専用機は空飛ぶ仕事場

政府専用機は、国のリーダーや要人が、公務のために移動するときに使う飛行機です。この記事では、日本でいう政府専用機に加え、各国の大統領専用機や、王室・政府の要人輸送を兼ねる代表的な機体も紹介します。

大切なのは、移動している間も仕事を続けられること。出発してから到着するまで、国の出来事が止まって待っていてくれるわけではありません。

そのため、機体によっては、地上と安全に連絡する通信設備、打ち合わせの場所、休むための区画などが用意されています。アメリカのVC-25Aには、医療用の設備まであります。私たちが機内で「映画をもう一本見ようかな」と考えているころ、こちらでは次の会談の準備が進んでいるかもしれません。

政府専用機の仕事を「休む」「打ち合わせ」「連絡する」の3つに分けて描いた、オチュン入りの機内イメージ
機内の役割を説明するイメージです。特定の機体の実際の間取りを表したものではありません。設備は国や機体によって異なります。

そして、こうした飛行機は国の仕事を担うための機材です。日本の政府専用機には、必要に応じて、緊急時に海外の日本人などを輸送する役割もあります。

政府専用機の歴史をひとめぐり

プロペラの時代から空の外交が始まった

アメリカでは1943年、ルーズベルト大統領が、飛行艇「ボーイング314」でカサブランカ会談へ向かいました。飛行艇とは、水面を滑走路のように使う飛行機。いきなり、今のジャンボとはずいぶん違う姿ですね。

穏やかな水面に浮かぶボーイング314クリッパー。船のような胴体とプロペラを描いた手描き風の小さな挿絵
水に浮かぶボーイング314クリッパー。同型機ヤンキー・クリッパーの公開写真を参考にしたイメージです。

その後、大統領のために特別に用意されたプロペラ機「VC-54C」が登場。愛称は「セイクリッド・カウ」です。1945年には、ヤルタ会談へ向かうルーズベルト大統領を運びました。1947年には、トルーマン大統領がこの機内で国家安全保障法に署名。アメリカ空軍の独立にもつながる法律が、飛行機の中で成立したのです。まさに「歴史が動いた仕事場」でした。

ジェット化で世界が近くなった

1962年には、ケネディ大統領の時代に、大統領用として特別に造られたボーイング707系のジェット機が登場しました。1990年には、現在の代表機につながる747系のVC-25Aが加わります。機体が大型化することで、随行する人の席に加え、執務や通信のための空間も確保しやすくなりました。

ただし、政府専用機の歴史は「どんどん大きくなる物語」だけではありません。近年の日本やドイツは、エンジン4基の機体から2基の機体へ交代。イギリスは、もともとの給油・輸送機に要人輸送の仕事を加えました。遠くへ飛ぶこと、維持しやすいこと、別の任務でも働けること。 選び方も広がっています。

まずは11か国のスペックと役割を比較

最初に、大きさと役割を並べてみましょう。全長は鼻先からお尻まで、全幅は翼の端から端までの長さです。数字は読みやすく、おおむね小数第1位に丸めています。

11か国の政府専用機を1列11段に並べたA4縦の手描き風比較図。左に国名とスペック、右に機体を配置
11か国をA4縦1枚にまとめた比較図です。機体の大きさはイメージで、厳密な縮尺ではありません。4発機は手前側の2基を描いています。画像をタップすると印刷用画像が開きます。
国 今回の代表機 全長 全幅 エンジン どんな立ち位置か
アメリカ VC-25A/747-200B系 約70.7m 約59.6m 4基 大統領の移動と、執務・通信を支える大型機
日本 777-300ER 約73.9m 約64.8m 2基 要人輸送と、緊急時の在外邦人などの輸送を担う大型機
ドイツ A350-900 約66.9m 約64.8m 2基 長い航続距離を持つ、政府の長距離輸送の主力
イギリス VIP仕様のVoyager/A330-200系 約58.8m 約60.3m 2基 要人輸送・空中給油・人員輸送をこなす兼任型
インド 777-300ER 約73.9m 約64.8m 2基 大統領・副大統領・首相の移動を支える大型機
ブラジル VC-1/ACJ319 約33.8m 約34.1m 2基 小型旅客機を土台にした、大統領のための専用機
フランス 政府用A330-200 約58.8m 約60.3m 2基 大統領・政府要人の長距離移動を支える機体
イタリア A319CJ/VC-319A 約33.8m 約34.1m 2基 会議・休憩・通信の区画を備えた小ぶりな要人輸送機
カナダ CC-330 Husky/A330-200系 約58.4m 約60.3m 2基 輸送で運用中。給油・政府要人向け仕様も順次整備
ロシア Il-96-300PU系 約55.3m 約60.1m 4基 国産大型機を土台にした、大統領向け特別仕様機
中国 首脳輸送の747-8I 約76.3m 約68.4m 4基 航空会社の塗装で首脳の長距離移動を支える大型機

表の寸法・エンジン数は、各国の軍・メーカー・運航者の資料によります。インド・フランス・イタリア・ロシア・中国は、土台となる機種の標準寸法です。ドイツの全長は連邦軍の解説文の66.89m、カナダは空軍の公表値58.40mを採用しています。カナダは新旧機の更新と仕様の整備が進む段階です。

ちょっと意外なのが、日本の777は、アメリカのVC-25Aより全長が長いこと。ただし747系には前方の上の階があり、胴体の形も違います。長さの数字だけで、機内の広さまで決まるわけではありません。

ブラジルのVC-1は、日本の777の半分より短い全長です。同じ「国のリーダーを運ぶ飛行機」でも、こんなに大きさが違います。

オチュン

大きさの順位より、仕事の違いを見ると面白いね。飛行機にも、得意科目があるんだ!

アメリカのVC-25Aは大統領の執務室を運ぶ

アメリカのVC-25Aを1機で描き、執務室・会議室・医療区画の設備イメージを添えた手描き風イラスト
上は747-200B系のVC-25A。下は公開資料で確認できる設備の種類を紹介するイメージです。実際の部屋の位置・広さ・内装を再現した配置図ではありません。

青と白の機体、前方のふくらんだ2階部分、翼の下に並ぶエンジン。世界の政府専用機の中でも、とくに知られた姿でしょう。土台は、ボーイング747-200B。空軍での機体名はVC-25Aです。

この機体の立ち位置は、大統領が移動中でも、必要な連絡や判断を続けられるようにする大型の仕事場。専用の執務室や会議の空間、通信設備、医療区画などを備えます。大きな機体を使う理由が、単に「ゆったり座れるから」ではないことが伝わってきます。

歴史の節目は1990年。1機目のVC-25Aは、同年9月6日に大統領を乗せて「エアフォースワン」として飛びました。公表されている航続距離は約12,550kmで、空中で燃料を受け取る機能もあります。ただし、人も機械も休みや整備が必要。「給油できるから永遠に飛べる」という意味ではありません。

エアフォースワンは機種名ではない

「エアフォースワン」は、アメリカ大統領が乗っているアメリカ空軍機の、無線での呼び名です。

ニュースでおなじみのVC-25Aだけに付いた、固定の機種名ではありません。別の空軍機でも、大統領が乗ればエアフォースワンになります。「飛行機の名前」だと思っていたら、実は「誰が乗っているかを伝える呼び名」だったのです。

日本の777は海外へ国の仕事を運ぶ

日本の政府専用機777-300ERと、長い胴体・エンジン2基の特徴を紹介するオチュン入りイラスト
航空自衛隊・特別航空輸送隊の公開写真を参照し、赤い帯の流れ、淡い青の下面、機体の文字を修正した777-300ER。手描き風のため、細かな窓や外形は簡略化しています。

白い胴体を流れる赤いラインと、尾翼の日の丸。日本の代表はボーイング777-300ERです。数字が長いので、まずは「トリプルセブン」と覚えれば十分。「ER」は、航続距離を延ばした型を表す言葉です。

初代の747-400は、1993年から2019年まで任務運航に活躍。2019年4月からは777へ交代しました。飛行機の前方にあった2階部分がなくなり、エンジンは4基から2基へ。見た目も、ぐっとすっきりしました。

777は、首相などの要人輸送を中心に、緊急時には在外邦人などの輸送にも使われます。運航を担うのは、北海道の千歳基地にある航空自衛隊の特別航空輸送隊。公表値では、航続距離は約14,000km、巡航速度は約925km/hです。巡航速度とは、空に上がって落ち着いて飛ぶときの速度のこと。数字の向こうに、長い国際移動を支える仕事が見えてきます。

立ち位置をひと言で表すなら、日本から遠い国へ、要人や随行する人たちをまとめて運ぶ実務の主力。国の名前が書かれた機体が、外交の仕事と、いざというときの輸送を支えています。

オチュン

ニュースで見たあの赤いライン。首相のお出かけだけじゃなく、緊急時の輸送という仕事もあるんだね。

ドイツのA350は長い距離を得意とする新しい世代

ドイツのA350-900を1機で描き、仕事・会議、ラウンジ、随行団の座席の設備イメージを添えた図
下段は連邦軍が紹介する、仕事・会議の区画、ラウンジ、随行団の座席を表す設備イメージです。部屋の位置・広さ・内装を再現した配置図ではありません。

ドイツの代表は、エアバスのA350-900。操縦席の窓を囲む黒い部分が、サングラスのようにも見える飛行機です。白い胴体に、ドイツ国旗を思わせる黒・赤・金のラインが走ります。

政府の長距離移動を担ってきたA340系から、A350系への更新は2020年に始まりました。2024年には、政府向けの内装を備えた3機の長距離機の体制がそろいます。導入から内装の仕上げまで、段階を踏んだ交代でした。

連邦軍が示す航続距離は約18,000km。機内には仕事や会議の区画、ラウンジ、随行団の座席を備えます。立ち位置は、遠い訪問先へ向かう政府の長距離輸送の主力です。

ここで一つだけ、数字を見るコツを。航続距離は「いつでも、その距離を飛べる」という約束ではありません。乗る人や荷物の重さ、風、燃料を残す条件などによって変わります。各国の公表条件も同じとは限らないので、数字をそのまま競争の順位にするより、どのくらい遠くへ行く仕事を想定した機体かをつかむ目安にしましょう。

イギリスのVoyagerは要人輸送と給油の二役以上

イギリスのVIP仕様Voyagerと、ビジネス仕様席・随行者の客席・通信設備のイメージを描いた図
VIP仕様機の座席区分と通信設備を紹介するイメージです。座席数・実際の座席配置や内装を再現した図ではありません。通常のVoyager輸送仕様の定員とは区別しています。

イギリスの代表例は、エアバスA330-200を土台にしたVoyager(ボイジャー)のVIP仕様機です。白い胴体に「UNITED KINGDOM」、尾翼には大きなユニオンフラッグ。華やかな見た目ですが、仕事は見た目以上に実務的です。

Voyagerは、もともと空中給油と人員輸送を行う機体。そのうちの1機を、王室や政府の要人も運べるよう改修し、2016年に要人輸送の任務へ投入しました。2020年には、国旗を大きく描いた塗装へ変更。「ヴェスピナ」の名でも紹介されています。

面白いのは、要人輸送用になっても、給油機としての能力を保っていること。空中給油とは、飛んでいる別の飛行機へ、燃料を渡す仕事です。要人を乗せる任務も、空で仲間を支える任務も持つ、役割の多い一機なのです。

なお、Voyager全体の説明で見かける「最大291人」という人数は、VIP仕様機の定員として、そのまま読まないようにしましょう。客室の使い方が違えば、乗れる人数も変わります。

オチュン

ある日は外交のお供、別の日は空の給油係。同じ飛行機に、いくつも仕事があるんだ!

インドの777は日本と同じ機種の別の仕事場

インドの777-300ERを1機で描いたオチュン入りの手描き風イラスト
日本と同じ777-300ERの仲間でも、国旗を思わせる塗装で違う表情に。機内の詳しい配置を示す図は付けず、外観と役割を紹介しています。

インドでは、大統領・副大統領・首相の移動のために、777-300ERの特別仕様機が使われています。そう、日本の政府専用機と同じ機種の仲間です。白い機体を彩る、インド国旗を思わせるサフラン色と緑のラインが目印です。

2020年11月24日には、当時のコビンド大統領が、新しいB777で最初の大統領搭乗便に乗りました。それまで同様の要人輸送を担っていた747-400から、燃費や航続性能を改善した機体への交代です。2021年には、2機の777-300ERの所有・運航・整備を、エア・インディアからインド空軍へ移したことが発表されました。

立ち位置は、国の最上位の要人が、国内外へ移動するための大型専用機。機種の標準寸法は日本と同じ、全長約73.9m・全幅約64.8mです。ただし、同じ機種だからといって、客室や装備、実際に飛べる距離まで同じになるわけではありません。

ボーイングが一般の777-300ERに示す航続距離は、最大約13,890km。これは機種の参考値で、インドの専用機そのものの航続距離を保証する数字ではありません。車の同じ車種に、用途に合わせた装備を付けるように、政府向けの機体にも国ごとの仕立てがあります。

ブラジルのVC-1はコンパクトな大統領専用機

ブラジルのVC-1を1機で描き、約33.8mの全長と通路1本という特徴を示したイラスト
小型旅客機A319を土台にしたVC-1。下の座席は通路が1本であることを示す模式図で、実機の座席の並び方・定員・機内の配置を再現したものではありません。

ここまでの大きな飛行機を見たあとだと、ブラジルのVC-1「サントス・ドゥモン」は、かわいらしく見えるかもしれません。土台はエアバスA319の政府・企業向け仕様、ACJ319。全長は約33.8m、翼幅は約34.1mです。日本やインドの777と比べると、ずっと短い機体です。

ブラジルには2005年に到着し、大統領の移動を支えてきました。当初の呼称「VC-1A」で紹介されることもありますが、現在の空軍の機体一覧では「VC-1 サントス・ドゥモン」と案内されています。名前の由来は、ブラジルの航空の先駆者、アルベルト・サントス・ドゥモンです。

立ち位置は、小型旅客機の大きさを生かした、大統領のための専用機。A319は、客室の通路が1本の「ナローボディ機」です。対して、777やA350、A330は通路が2本ある「ワイドボディ機」。同じ政府専用機の世界にも、客室の造りから違う仲間がいるのです。

小さめの機体には、大型機ほど多くの空間を取れない面があります。一方で、国のリーダーを運ぶ飛行機が、すべて巨大である必要もありません。どのくらいの人数で、どこまで、どんな仕事をしながら飛ぶか。 VC-1を見ると、飛行機選びの物差しが増えてきます。

フランスのA330はトリコロールをまとった長距離の仕事場

フランスの政府用A330-200。実機F-RARFの尾翼から後部胴体へ流れる青・白・赤の塗装を描いた手描き風イラスト
実機F-RARFの公開写真を参照。尾翼の3色が、後部胴体へなめらかに流れる塗装に注目です。

フランスの代表例は、エアバスのA330-200。胴体には「RÉPUBLIQUE FRANÇAISE(フランス共和国)」の文字があり、尾翼から青・白・赤のトリコロールが流れます。国旗をそのまま貼ったようでいて、帯が後ろの胴体へ曲がって続くところがおしゃれです。

全長は約58.8m、全幅は約60.3m、エンジンは2基。イギリスのVoyagerと同じA330-200系が土台ですが、こちらの立ち位置は大統領や政府要人の長距離移動を支える仕事場です。元が同じ飛行機でも、どの装備を載せ、何の仕事を任せるかで役割は変わります。

政府向けA330は2010年に登場しました。民間で使われていた機体を取得して改修し、それまでの政府用A319を置き換えたものです。「専用機」と聞くと、最初から特別注文で造るイメージですが、旅客機としての経験を持つ機体が、国の仕事へ転職することもあるのですね。

フランス国民議会の資料は、安全に連絡するための政府通信システムも紹介しています。大きな機体の中身は、長い移動時間を会談の準備や連絡に使うための仕立て。外から見る3色の美しさの向こうに、外交を続けるための実務があります。

イタリアのA319CJは小ぶりでも機内を使い分ける

イタリアのA319CJと、公表された会議・要人の休憩・随行者の席・スタッフと通信という4種類の機内設備イメージ
実機MM62243の塗装を参照。下段はイタリア国防省が説明する4区画の役割を表した設備イメージで、実際の間取り・家具・座席配置を再現した図ではありません。

イタリアでは、A319CJが国の要人輸送に使われています。空軍での呼称はVC-319A。ブラジルのVC-1と同じA319系の仲間で、全長は約33.8m、全幅は約34.1m、エンジンは2基です。この寸法は、同じ基本形のA319の参考値です。

白を基調に、細い緑・白・赤のラインと「REPUBBLICA ITALIANA(イタリア共和国)」の文字。参照したMM62243は、白い尾翼の上のほうにEUのマークもあります。小さな模様を探すだけでも、各国の個性が見えてきます。

イタリア空軍によると、A319CJの正式な就役は2000年3月7日。それまでのDC-9/30やガルフストリームIIIを置き換えるために選ばれました。通常の旅客型に対して追加の燃料タンクを備え、遠くへ飛ぶ用途に合わせています。

とくに面白いのは、小さめの胴体の中の使い分けです。国防省が示すのは、会議、要人の休憩、随行者の客席、スタッフの休憩と通信という4つの区画。国の要人を運びながら、打ち合わせや連絡も進める。立ち位置は、小型旅客機を土台に必要な仕事の場をまとめた、政府の実務用専用機です。

オチュン

大きな飛行機だけに会議室があるわけじゃないんだね。限られた空間をどう使うかも、飛行機の個性なんだ!

カナダのCC-330はハスキーへ世代交代の途中

カナダのCC-330ハスキー330002。白い上部、濃い青の下面、赤い帯とメープルリーフを描いたイラスト
政府塗装の330002を参照。CC-330は段階的に整備中の機種です。この図は、完成予定の要人用客室や給油装備を再現したものではありません。

カナダは、政府の輸送も担ってきたCC-150 Polaris(ポラリス)から、CC-330 Husky(ハスキー)へ更新を進めています。名前だけ聞くと、北極星から元気な犬へのバトンタッチ。実際には、A310系からA330-200系への世代交代です。

最初のCC-330は2023年11月に運用を開始しました。カナダ政府の計画は9機で、人員・貨物の輸送、医療搬送、空中給油、政府要人の輸送などを担うものです。イギリスのVoyagerと同じように、国のリーダーの移動だけに仕事を絞らない考え方が見えます。

空軍の公表値は全長約58.4m、全幅約60.3m。エンジンは2基で、計画資料で示す航続距離は約13,900km(貨物10トンの条件)です。メーカーが示すA330-200の全長約58.8mとは表記に差がありますが、この記事のカナダの欄は、カナダ空軍の数値を採用しています。

ここでは、輸送型が働き始めたことと、すべての仕様が完成したことを分けて見るのがポイント。政府用の客室を備えた機体の引き渡しは、確認時点の公式計画で2027〜2028年とされています。紹介する立ち位置は、輸送・給油と要人輸送を支える、整備が進む次世代の多目的機です。

イラストの330002は、白い上部に濃い青の下面、赤い帯、メープルリーフが目印。カナダのCC-330すべてが、この塗装や同じ客室というわけではありません。

ロシアのIl-96は国産4発機という別の選び方

ロシアの大統領用Il-96-300PU。実機RA-96021の白い尾翼、小さな国旗、赤と青の帯を描いた図
実機RA-96021を塗装の参考にしています。見えている側の2基に加え、反対側の翼にも2基あり、エンジンは合計4基です。

ここで、ボーイングやエアバスとは別の顔が登場します。ロシアの大統領用として知られるのが、国産のイリューシンIl-96-300の特別仕様機、Il-96-300PU系です。丸みのある胴体に、翼の下のエンジンは4基。前にふくらんだ2階部分はなく、747とは違った姿をしています。

土台となるIl-96-300の寸法は、全長約55.3m、全幅約60.1m。日本の777より胴体は短くても、翼は約60mに広がります。「エンジンが4基だから、必ず747くらい長い」とは限らないのですね。

メーカー発表を掲載したロシア航空工業連合の記録によると、最初の国家指導者輸送用Il-96-300の初飛行は1996年10月12日。それまで使われていたIl-62Mに代わる機体として登場しました。旅客機の設計を土台に、要人輸送向けの特別仕様を育ててきた歴史があります。

立ち位置は、国内で造る大型機を使い、大統領の移動を支える特別仕様の機体。白い尾翼に小さな国旗、胴体には赤い「РОССИЯ(ロシア)」と青・赤の帯が描かれています。外観から確認できる特徴を楽しみつつ、公表資料で確かめられない機内の間取りや特殊装備は、この記事の図には描いていません。

中国の747-8Iは航空会社の姿で首脳外交へ

中国の首脳輸送に使われたエア・チャイナ747-8I。GEnx-2Bエンジン後端のシェブロンと拡大図を描いたイラスト
2024年の首脳訪問で撮影されたB-2479を塗装の参考にしています。エンジン後端のギザギザは「シェブロン」。左下の拡大図にも描いています。機体番号は当時の例で、現在使う機体の固定指定を意味しません。

「中国の政府専用機は、尾翼が全部真っ赤なのかな」。そう想像したら、実物の写真は少し意外かもしれません。代表例として紹介する747-8Iは、白い胴体に青い帯、尾翼に赤い鳳凰という、エア・チャイナ(中国国際航空)の塗装です。航空会社の飛行機の姿で、首脳の移動を支えてきました。

747-8Iは、747旅客型の最後の世代。「I」はIntercontinentalの略で、長距離を飛ぶ旅客型です。一般型の全長は約76.3m、全幅は約68.4m、エンジンは4基。アメリカのVC-25Aと同じ747一族でも、こちらは長い胴体と新しい世代の翼を持っています。

エンジンはGEのGEnx-2B。カバーの後ろのふちや排気ノズルには、シェブロンというギザギザがあります。空気の流れの混ざり方を調整し、音を抑えるための形です。飾りのように見えて、ちゃんと仕事をしているのですね。前の丸い吸い込み口と、後ろのギザギザを見分けると、747-8らしさがもう一つ見つかります。

エア・チャイナへの最初の747-8Iの引き渡しは2014年9月。これは航空会社としての導入時期です。首脳輸送向けの改修・運用が始まった年と、混同しないようにしましょう。イラストでは、2024年のフランス訪問時に撮影された機体を手がかりに、外から分かる塗装を描きました。

立ち位置は、国際訪問に向かう首脳と随行団の移動を支える大型機。一方で、一般旅客便の座席表を、そのまま首脳が乗るときの機内図として使うことはできません。専用の客室構成を確認できる資料が限られるため、今回は間取りの想像図を付けず、747の外観と役割に注目しています。

オチュン

専用機って、国ごとの特別な塗装とは限らないんだ! 同じ747でも、アメリカと中国では見え方がずいぶん違うね。

ニュースを見るのが楽しくなる3つの疑問

どうして普通の旅客機に似ているの

今回紹介する11か国の機体は、いずれも民間旅客機の設計を土台にしています。世界中へ人を運んできた機体に、執務や通信、要人輸送などに合わせた設備を加えているのです。空港で見たことのある飛行機と、国のリーダーが乗る飛行機が、実は親戚。そう思うと少し身近になります。

座席数が少ないのはもったいなくないの

一般の旅客機は、多くのお客さんを運ぶことが中心です。政府専用機は、移動中の仕事や休息、通信などの空間も必要になります。似た見た目でも、客室の使い方が違います。「同じ機種なのに定員が少ない」ときは、座席の代わりに、何のための場所を確保しているのかを想像してみてください。

大きな機体がいちばん優秀なの

大きな機体は、人数や設備のための場所を取りやすくなります。その一方、必要な滑走路や駐機場所、整備なども考えなくてはなりません。人数や目的地によっては、別の大きさの機体が向くこともあります。政府の輸送には、今回紹介した代表機のほか、小型の飛行機などが使われる場合もあります。

ですから、世界の政府専用機を楽しむコツは、「どの国がいちばん豪華か」の競争よりも、その国が飛行機にどんな仕事を任せているかを見ることです。

オチュンと復習する3択クイズ

第1問 エアフォースワンとは何のこと

A.アメリカで造ったすべての飛行機 B.アメリカ大統領が乗っているアメリカ空軍機の無線での呼び名 C.世界の政府専用機に共通する名前

答えと解説を開く

正解はB。 おなじみのVC-25Aという機種名と、エアフォースワンという無線での呼び名は別です。

第2問 イギリスのVIP仕様Voyagerが兼ねる仕事はどれ

A.飛んでいる別の飛行機への給油 B.翼をたたんで道路を走ること C.宇宙ステーションへの人員輸送

答えと解説を開く

正解はA。 要人輸送用へ改修したあとも、空中給油の能力を保っています。

第3問 日本の777と同じ機種の仲間を使う国はどこ

A.ドイツ B.ブラジル C.インド

答えと解説を開く

正解はC。 日本とインドは、ともに777-300ERを土台にしています。客室や装備は、それぞれの用途に合わせた仕様です。

オチュン

飛行機の名前を全部覚えなくても、『あの機体はどんな仕事をしているのかな』って見られるようになったよ!

次にニュースで見かけたら機体にも注目

大統領や首相が階段を降りる、その後ろには、国の仕事を支える一機がいます。

大きな執務の空間を持つアメリカ。長距離の移動を担う日本・ドイツ・インド・フランス。給油も兼ねるイギリスと、更新が進むカナダ。小型旅客機を土台にしたブラジル・イタリア。国産4発機を使うロシアと、エア・チャイナの姿で登場する中国。

次にニュースで見かけたら、尾翼の国旗、エンジンの数、胴体の長さに、少しだけ目を向けてみてください。「あ、あの飛行機だ」。そんな小さな発見から、空の世界は楽しくなります。

出典

機体の紹介は2026年11月5日時点で確認できた公開資料に基づきます。紹介した11か国の機体は各国の代表例で、すべての政府用航空機を網羅した一覧ではありません。

イラストは本記事用の描き下ろしです。日本機の修正および追加5か国の塗装は公開された実機写真を参照しています。手描き風のため、外形・窓・小さな文字などの細部は簡略化しています。写真自体は記事へ転載していません。機内設備の絵は用途を説明するイメージで、実際の間取りではありません。

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この記事を書いた人

オチュン社長の付き人

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