寒い朝、草や落ち葉が、白いお砂糖をまぶしたようになっていることがあります。近づいて見ると、キラキラした小さな氷がいっぱい。これが霜(しも)です。
「霜が降りた」と言うけれど、霜はどこから降ってきたのでしょう。じつは、空気の中の見えない水蒸気が、冷えた葉などの表面で直接、氷になるのです。
オチュンといっしょに、夜の庭をのぞいてみましょう。後半では、百人一首の「かささぎの」の歌を、天気のしくみから味わいます。

① 霜は葉の上で育つ小さな氷
空気の中には、水蒸気(すいじょうき)がふくまれています。水蒸気は、水が気体になったもの。目には見えません。青い空の日も、透明に見える空気の中にあります。
夜のあいだに葉の表面が0℃より低くなり、水蒸気が氷としてくっつく条件がそろうと、小さな氷の結晶ができます。結晶は、形の整った氷のつぶのこと。そこに水蒸気がさらに加わると、針や羽のような形に育つことがあります。

大切なのは、水蒸気 → 氷という順番です。いったん水のしずくになってから凍るわけではありません。先にできた露(つゆ)が凍ることもありますが、それは、ここで説明している霜とはでき方がちがいます。
雪と霜も、できる場所がちがいます。雪は、雲の中で育った氷が空から落ちてきます。霜は、地上の葉や木の板などの表面で育ちます。「霜が降りる」は、昔から使われている言い方なのですね。
② 夜の地面は熱を出して冷える
では、葉や地面は、なぜ夜になると冷えるのでしょう。
地面や葉は、いつも赤外線(せきがいせん)という、目に見えない光を出して、熱を外へ送っています。昼は太陽の光であたためられますが、日がしずむと、そのあたためがなくなります。
地面が受け取る熱より、出ていく熱のほうが多くなると、地面の温度が下がります。こうして、赤外線を出して冷えることを放射冷却(ほうしゃれいきゃく)といいます。

雲や空気も、地面に向かって赤外線を出しています。雲が多い夜は、雲から届く熱が、まるで大きな布団のように地面の冷えこみを弱めます。晴れた夜は、その熱が少なくなり、地面や葉が冷えやすいのです。
見上げた夜空に星がくっきり見えるなら、雲が少ないのかもしれません。星や月が冷たさを送っているのではなく、雲の少ない空の下で、地面が熱を失いやすくなっているのです。
③ 霜ができやすい夜の3つの条件
霜を見つけやすいのは、寒さに加えて、次の条件がそろう夜です。

① 晴れていること。 雲から受け取る熱が少なく、地面や葉が冷えやすくなります。
② 風が弱いこと。 地面の近くで冷えた空気が、上のほうの暖かい空気と混ざりにくくなります。冷たい空気が、地面の近くにとどまりやすいのです。
③ 材料になる水蒸気があること。 氷の材料は、空気中の水蒸気です。とても冷えても、水蒸気が少なすぎると、白い霜が育たないことがあります。
「寒ければ必ず霜」というわけではありません。表面の温度と、水蒸気の量の組み合わせが大切なのです。
④ 気温が3℃でも霜ができることがある
「氷ができるなら、天気予報の気温も0℃より低いはず」と思いませんか。
じつは、天気予報で見る気温は、葉の温度ではありません。気温は空気の温度で、日本の気象観測では、地面から約1.5mの高さで測ります。
晴れて風が弱い夜には、葉や地面の表面が、その高さの空気より冷たくなることがあります。たとえば、空気は3℃でも、葉の表面は−1℃ということがあるのです。

だから、気温がプラスでも、葉の表面で氷ができる条件がそろえば、霜は育ちます。霜のひみつを考えるときは、空気だけでなく、霜がついている物の温度にも注目しましょう。
⑤ 百人一首に出てくる白い霜
霜の白さを見て、夜が深まったことを感じる歌があります。百人一首の6番、中納言家持(ちゅうなごんやかもち)の歌として伝わる一首です。
かささぎの 渡せる橋に
おく霜の 白きを見れば
夜ぞ更けにける
最後は「よぞ ふけにける」と読みます。「更ける」は、夜が進んで遅い時間になること。「おく霜」は、物の上にできている霜のことです。
やさしく言いかえると、こんな気持ちでしょう。
かささぎがかけたという橋。その霜の白さを見ていると、ああ、夜もずいぶん深くなったのだなあ。
かささぎは、白と黒の羽をもつ鳥です。七夕の伝説には、かささぎたちが天の川に橋をかけるお話があります。この歌は七夕の歌ではなく、『新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)』では冬の歌に入っています。

この歌には、冬の星の白いかがやきを霜に見立て、天の川の橋を思う読み方と、宮中の階段を、伝説の橋にたとえる読み方があります。宮中とは、天皇のお住まいなどがある場所です。
ここでは、階段にできた霜を見る読み方から、夜の冷えこみを考えてみましょう。
⑥ 白い霜から夜更けを感じる理由
日がしずんですぐの階段には、昼の暖かさがまだ残っているかもしれません。それから、晴れて風が弱い夜が続くと、階段や手すりは少しずつ熱を失っていきます。
表面が十分に冷えると、空気中の水蒸気から氷の結晶ができます。そのあとも条件が続けば、結晶が育ち、白い霜が目立つようになります。

晴れておだやかな夜には、冷えこみが朝まで続き、日の出の前後に、その日いちばん低い気温になることがよくあります。真夜中を過ぎても、まだ冷えていくことがあるのですね。
このしくみを重ねて読むと、歌の白い霜は、夜のあいだに冷えこみが進んだことを感じさせる手がかりになります。
「こんなに白い霜ができるほど、冷えこんだんだ。夜もずいぶん進んだのだなあ」。そう想像すると、「夜ぞ更けにける」の実感が、ぐっと身近になりませんか。
ただし、霜だけで夜中の何時かはわかりません。とても寒い日は夕方からできることもあり、霜の白さには水蒸気の量なども関係します。この歌を「霜があるから必ず深夜だ」という天気の法則にすることはできません。
それでも、白い霜から、静かな時間の流れと冷えこんだ夜を感じることはできます。目に見える霜と、目には見えない夜の冷却が、この一首の中でつながっているのです。
⑦ 朝の霜をオチュンと観察しよう
晴れて冷えた朝に、家の庭や安全な公園で、草や落ち葉を見てみましょう。日が当たると霜はとけていくので、朝の早い時間が見つけるチャンスです。
- 形を見る。 白い粉のように見えますか。針や羽のような形はありますか。虫めがねがあれば、そっと近づけてみましょう。
- 場所をくらべる。 空がよく見える場所と、屋根の下。日が当たり始めた場所と、まだ日かげの場所。同じ庭でも、霜のつき方にちがいはあるでしょうか。
- 前の夜を思い出す。 晴れていましたか。風は強かったですか。気づいたことを、霜の絵といっしょに書いてみましょう。
冷えた朝の道はすべることがあります。道路や人の庭には入らず、暖かい服で観察してください。夜に起きて待っていなくても、朝の霜から、夜の冷えこみを想像できます。
⑧ 霜のひみつを確かめる3問
答えをクリックすると、結果とヒントが出るよ。何度でも選び直せます。くわしい説明は「答えを見る」で開いてね。
第1問 霜は雪のように空から降ってくる
答えを見る答えを閉じる
いいえ。 霜は、空気中の水蒸気が、冷えた葉などの表面で直接、氷の結晶になったものです。
第2問 気温が3℃なら葉に霜はできない
答えを見る答えを閉じる
いいえ。 葉の表面が、気温より冷たくなることがあります。葉の温度が0℃より低くなり、水蒸気が氷としてつく条件がそろえば、気温がプラスでも霜はできます。
第3問 百人一首の白い霜はなぜ夜更けを感じさせる
答えを見る答えを閉じる
気象のしくみを重ねると、日がしずんだあとに表面が熱を失い、冷えこみが進んだことを感じさせるから、と考えられます。ただし、霜だけで時刻がわかるわけではありません。
出典と参考資料
- 長野地方気象台 春の特徴 — 「遅霜」「放射冷却」の項。晴天・弱風、地表の冷えこみ、気温がプラスでも霜ができる理由。
- 米国国立気象局 DEW AND FROST DEVELOPMENT — 露と霜のでき方、気温と地表付近の温度のちがい。英語の資料です。
- 気象研究所 荒木健太郎 空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究 — 霜の結晶の形、凍結した水滴とのちがい、朝の観察。
- 千葉晃 アメダス10分値による冬季早朝の最低気温出現時刻の特定 — 日本地理学会、2004年。日の出前後の最低気温に関する説明と観測事例。
- 嵯峨嵐山文華館 小倉百人一首 第6番 — 歌の本文、中納言家持という作者表示、冬の歌であること、宮中の橋という読み方。
- 国文学研究資料館 ないじぇる芸術共創ラボ 古典インタプリタ日誌 — 2018年3月9日、8ページ。星を霜に見立てる読み方と、宮中の階段に重ねる読み方。
- 高岡市万葉歴史館 家持さんの代表的な歌は — この歌が『万葉集』にはなく、実際の作者について議論があること。

コメント