夜鷹は、星になる。宮沢賢治『よだかの星』と夜の鳥の暮らし

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自然と文学のあいだを、ひと羽と。

夜鷹は、星になる。

宮沢賢治『よだかの星』から出会う、
夜の森を生きる鳥のほんとうの姿。

鳥の生態 ・ 歴史と文化 ・ 宮沢賢治

月と星が浮かぶ藍色の空で、木の皮のような羽模様のヨタカが左右の長い翼を広げる手描き風イラスト
夕暮れの先には、ヨタカの時間が待っている。色鉛筆と水彩の風合いで描いたイメージです。

森が眠るころ、
目を覚ます翼がある。

夕日が山の向こうへ沈むと、木々は少しずつ輪郭をなくしていきます。空に残った薄い青。その下を、ひと羽の鳥がすべるように横切ります。

夜鷹(ヨタカ)。名前は聞いたことがあっても、本当の姿を思い浮かべるのは難しい鳥かもしれません。宮沢賢治の『よだかの星』で、この名を覚えた方もいるでしょう。

物語のよだかに会いに行く前に、まずは夜の森で暮らすヨタカを、そっとのぞいてみましょう。細かな羽の模様も、大きな口も、知るほどに違って見えてきます。

まずは、鳥の自己紹介

「夜鷹」だけれど、
タカの仲間ではありません。

ヨタカはヨタカ目ヨタカ科の鳥です。タカのような鋭いくちばしで獲物を引き裂く鳥を想像すると、実物は少し意外かもしれません。小さなくちばし、平たい頭、大きな目。体は横に長く、翼も尾もすらりとしています。[1][2]

名前
ヨタカ / 漢字では「夜鷹」
分類・学名
ヨタカ目ヨタカ科
Caprimulgus jotaka
大きさ
全長約29cm。くちばしの先から尾の先まで
日本での暮らし
主に九州以北に、繁殖のため渡ってくる夏鳥
好きな場所
明るい林、林のふち、草地など
食べもの
ガなど、空を飛ぶ昆虫

「夏鳥」は、春から夏に日本へ来て子育てをし、秋には南へ渡る鳥の呼び方。ヨタカは、冬を東南アジアで過ごします。私たちが夏の夜を迎えるころ、この鳥も遠い旅の先で暮らしを始めているのです。[3]

主な繁殖域を緑色で示した日本地図。北海道・本州・四国・九州の各島に可愛いデフォルメのヨタカを1羽ずつ置き、春から夏の生息をイメージした図
緑色と鳥の絵は、春から夏にヨタカが見られる主な地域のイメージです。明るい林や林のふち、草地などに渡来します。色がついた地域のすべての場所で見られるわけではありません。[1][3]地図の輪郭:Natural Earth。[12]

A4用紙の長い辺に、
ひと羽の長さを重ねて。

全長29cm、と聞いてもぴんとこないときは、コピー用紙を一枚思い浮かべてください。A4用紙の長い辺は29.7cm。ヨタカの全長と、ほとんど同じです。30cmの定規なら、その長さより1cmほど短い計算になります。

29cm

ヨタカのおおよその全長
くちばしの先 → 尾の先

ヨタカの全長29cmとA4用紙29.7cm、定規30cmの長さ比較 横向きに置いたA4用紙に、翼を閉じたヨタカの横向きイラストを重ね、その下に30cmの定規を並べています。ヨタカのくちばしの先から尾の先までを29cm、用紙の長い辺を29.7cmとして、同じ縮尺で比べています。画面の実寸ではありません。 A4用紙を横向きにすると… ヨタカの全長 29cm A4の長い辺 29.7cm 0102030 30cm定規と比べても、ほぼ同じ
ヨタカの全長・用紙・定規の長さの比率をそろえたイメージ図です。画面上の実寸ではありません。全長は、くちばしの先から尾の先まで。翼は閉じた姿で描いています。

昼と夜、ふたつの顔

昼は木の皮にまぎれ、
夜は大きな口で虫を追う。

褐色の細かな羽模様をしたヨタカが、枝の向きに沿って体を低く伏せ、目を閉じて休む手描き風イラスト
どこまでが鳥で、どこからが枝? 昼のヨタカは枝に沿って伏せるように休みます。生態をもとにした挿絵です。

木の皮のような羽は、身を隠す装い

灰色、茶色、黒、淡い色。その細かな模様が重なって、ヨタカの羽は木の皮や枯れ葉に似た色合いになります。昼間は枝の向きに沿って、おなかをぴったり寄せるように休みます。模様と姿勢の両方が、見つかりにくさにつながっています。[4]

地味な服、というより、森の中で生きるための精巧な一着。よく見ると、その羽の一枚一枚に小さな風景が閉じこめられているようです。

小さなくちばしの奥に、大きな口

夕暮れになると、ヨタカは空へ出かけます。閉じたくちばしは小さくても、口を開くとがま口のように大きく広がります。飛びながらガなどの昆虫を捕らえる、夜の食事に合ったつくりです。[2]

長い翼と尾

横長の体に細長い翼。飛ぶ姿を見たときの、大事な手がかりです。

細長い翼と長い尾を広げて飛ぶヨタカの手描き風イラスト
雄には白い目印

雄の翼や尾には白い部分があり、飛ぶと目立ちます。

翼と尾に白い目印がある雄のヨタカの手描き風イラスト
地面で子育て

目立つ巣はつくらず、地上に通常2個の卵を産みます。

落ち葉のある地面で2個の卵に寄り添うヨタカの手描き風イラスト

翼・尾の特徴は日本野鳥の会、採食・営巣はサントリーの鳥百科を参照しています。[1][2]

姿より先に、声に出会うかもしれない

夕暮れから夜明けにかけて、ヨタカは同じ調子の声を繰り返します。森の奥から聞こえたら、夜が動き始めた合図のように感じられるでしょう。

キョ、キョ、キョ、キョ……

鳴き声を文字にするときの表し方には違いがあります。実際の声は、日本野鳥の会の図鑑にある音源から聞けます。屋外では流さず、イヤホンで静かに楽しみましょう。[1][2]

日本野鳥の会の図鑑で、声を聞く ↗

ページを開くと、もうひとつの夜

賢治のよだかは、
なぜ遠い空を目指したのか。

ここからは、物語の結末にふれます。

宮沢賢治は1933年9月21日に亡くなりました。享年37歳(満年齢)でした。[9]童話『よだかの星』が発表されたのは、その翌年の1934年です。夜の鳥が、読む人の心に長く残る光になる物語です。[5]

姿を笑われ、名前まで奪われそうになる。主人公のよだかは、ほかの鳥たちから見た目を笑われます。鷹からは、自分と似た名前を使うなと、改名を迫られます。

食べることの痛みにも、気づいてしまう。苦しみは、冷たい言葉だけではありません。自分も毎晩、虫の命を食べて生きている。命を奪われる怖さを知ったよだかは、自分の食事にも胸を痛めます。

やがて、体は青い光になる。太陽や星に願い、空へ昇り続けたよだか。物語の最後では、天の川を背に、カシオピア座の隣で青く燃える光になります。

あらすじは、青空文庫で公開されている作品本文に基づきます。[6]

遠い森の上から、小さなヨタカが青白い光をまとって天の川へ向かう、幻想的な手描き風イラスト
『よだかの星』から着想した空想の挿絵です。星の配置は実際の星図を表していません。

まだらな羽と、大きな口

物語のはじめに描かれるのは、まだらな顔と大きな口。実物のヨタカを思い浮かべると、木の皮に似た羽の模様や、虫を捕らえる口が目に浮かびます。

枝の上で目を閉じている姿は、どこか眠たげ。そんな一羽を知ってからページを開くと、物語のよだかが少し身近に感じられます。

読み終えたあとに残る、青い光

よだかが昇っていく空は、冷たく、遠く、星がいっぱいです。つらい場面の続く物語なのに、最後の青い光には、不思議と静けさがあります。

本を閉じたあとも、暗い空の片隅で小さな光が燃えている。賢治の描いた夜には、そんな余韻が残ります。

「今でもまだ燃えています。」── 宮沢賢治『よだかの星』[6]

「よだかの星」は物語の中の星。カワセミや「蜂すずめ」の兄とされる関係も、作品ならではの設定です。

青空文庫で『よだかの星』を読む ↗

鳥の夜と、人の時間

不思議な鳥に、
人は物語を重ねてきた。

昼は見つけにくく、夜には声が響く。ヨタカのように暮らしが見えにくい鳥は、人の想像をかき立ててきました。賢治の童話や遠い国の言い伝えだけでなく、江戸のことばにも、この鳥と同じ名が残っています。

姿の見えにくい夜の鳥を、人はさまざまに想像してきたのでしょう。乳を飲む鳥という言い伝えの向こうにも、虫を追う小さな翼が見えてくるようです。

森と人との関わりが、鳥の居場所にもつながる

ヨタカが生きる場所は、ただ木が多ければよい、というわけではありません。森林総合研究所が北海道中部で行った調査では、周囲に若い林が豊富な場所ほど、ヨタカが生息する確率が高いことが分かりました。林の中に開けた場所があることも、この鳥には意味をもちます。[3]

これは、その地域の森林とヨタカの関係を調べた結果です。「どこでも木を切ればよい」という意味ではありません。林をどう育て、どう使うか。その土地の鳥の暮らしを知ることが、居場所を守る手がかりになります。

もし出会えたら、暮らしの邪魔をしない

ヨタカは地面で卵を温め、昼は目立たない姿で休みます。見つけたくなる鳥ですが、見つけたあとの距離も大切です。

  • 近づきすぎない。地上の卵や、休む鳥を驚かせないようにします。
  • 録音した声で呼び寄せない。鳥が仲間の声と間違うことがあります。
  • 繁殖している場所を広く知らせない。観察する人が集まり、子育てを妨げるのを防ぎます。

観察の配慮は、日本野鳥の会のフィールドマナーと、サントリーの音源利用のお願いを参照しました。[8][2]

夜空のどこかに、物語の青い光を思う。

小さな復習、6つの問い

夜鷹のこと、
いくつ覚えていますか。

選択肢をクリックすると、正誤と正しい答え、解説が開きます。答えを見たあとに、ほかの選択肢を選び直すこともできます。

0 / 6 問に回答

QUESTION 01 / 06『夜鷹』という名前のヨタカ。分類はどれでしょう?

Aタカの仲間
Bヨタカ目ヨタカ科の鳥
Cフクロウの仲間

QUESTION 02 / 06全長約29cmのヨタカ。いちばん近い長さはどれ?

AA4用紙の長い辺
BA4用紙の短い辺
C15cmの定規1本

QUESTION 03 / 06ヨタカが主に飛びながら捕らえるものは?

A夜の池の小魚
B木の枝の果実
Cガなどの飛ぶ昆虫

QUESTION 04 / 06昼のヨタカが枝に沿って低く伏せるのは、どんな効果がある?

A体が木の皮に変わる
B羽模様と合わさって、見つかりにくくなる
C枝から樹液を吸いやすくなる

QUESTION 05 / 06『よだかの星』で、よだかが胸を痛めることのひとつは?

A自分も虫の命を食べて生きていること
B春に日本へ渡ってきたこと
C自分の羽に星の模様がないこと

QUESTION 06 / 06ヨタカに出会えたとき、大切にしたい行動は?

A声の録音を流して近くへ呼ぶ
B休む鳥が飛ぶまで近づく
C道から外れず、距離を保って見守る

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この記事を書いた人

図書館でブログを書く、とある会社の副社長。

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