オチュンの鳥の観察ノート
大きな翼の旅と 湿原で暮らす一年を知ろう
雪の中に立つ白い体、すらりとした首、頭の赤いしるし。北海道の風景でおなじみのタンチョウは、冬になると南へ渡るのでしょうか。答えは、暮らす地域によって違います。大陸では季節ごとに南北を旅し、現在の北海道では一年を通して島内で暮らします。同じ鳥の二つの暮らしを、大きさや家族、人との歴史と一緒に見ていきましょう。

赤い頭の大きな鳥 タンチョウ
タンチョウは、ツル目ツル科に属する鳥です。学名は Grus japonensis、英語では Red-crowned Crane と呼ばれます。「丹」は赤、「頂」はてっぺんのこと。名前は、頭のてっぺんの赤い部分に由来するといわれます。
赤く見えるのは、赤い羽ではありません。羽がなく、皮膚が露出している部分です。成鳥は白い体に黒い首、赤い頭が目立ちますが、ヒナは淡い茶色。大きくなった幼鳥にも頭や首の茶色が残るので、親子が並ぶと違いを見つけられます。
もう一つ、おもしろいのが翼の色です。立っていると、おしりのあたりに長い黒い羽が垂れて、黒い尾のように見えます。でも、これは折りたたまれた翼の一部で、尾羽そのものは白色です。翼を広げると、外側の羽は白く、内側の風切羽は黒いという組み合わせがよくわかります。
食べ物は魚だけではなく、カエル、昆虫、エビやカニ、貝、植物の芽や実などさまざま。水辺や草地で、季節に応じた食べ物を探す雑食性の鳥です。
人や四畳半と比べる大きさ
写真では、タンチョウの大きさを実感しにくいかもしれません。人と並んだ姿や、身近な四畳半の部屋に置き換えてみましょう。

| 比べるところ | 大きさ | 身近なものに置き換えると |
|---|---|---|
| 立ったときの高さ | 約150cm | 身長160cmの人の目元に近い高さ |
| 翼を広げた幅 | 約220〜240cm | 一辺約2.6mの四畳半なら、部屋の幅の9割ほど |
| 全長 | 代表的な目安は約140cm | くちばしの先から尾の先までの長さ |
| 体重 | 約6〜11kg | 2Lペットボトル3本〜5本半に入る水の重さ |
「全長」と「立った高さ」は別の測り方です。図鑑の全長約140cmは、くちばしの先から尾の先までを測った数字。長い脚で立ち、首を伸ばしたときの頭の高さを表す数字ではありません。
翼の幅は、身長160cmくらいの人が両手を広げた姿を思い浮かべても、それよりさらに大きな広がりです。図では、一辺約2.6mの四畳半を例にしています。翼の幅が240cmなら、部屋の幅の9割ほど。部屋の中央で広げたと想像すると、左右に残るのは約10cmずつです。畳や部屋の寸法は地域や建物によって異なります。水の重さは1Lを約1kgとして計算したもので、容器の重さは含めません。どの数字も成鳥の目安で、性別や個体、姿勢によって違います。
参考:立った高さ・翼の幅・体重は鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ、全長の代表値約140cmは環境省 タンチョウ。四畳半の寸法例は萩原製造所のサイズ表の江戸間4.5畳(261×261cm)を参考に、図では約260cmとしています。人・四畳半・水との比較は、大きさを身近に感じるための例です。
大陸と北海道で違う渡り
鳥の「渡り」は、一般に、子育てをする場所と冬を越す場所を季節に合わせて行き来する移動です。タンチョウを知るときは、大陸の個体群と北海道の個体群で、移動のしかたが違うことが大切になります。「個体群」は、ある地域で暮らす同じ種類の鳥たち、と考えてください。

大陸では 秋に南へ 春に北へ
大陸のタンチョウは、中国東北部やロシア極東などの湿地で繁殖し、秋になると南へ移動します。冬を過ごす代表的な地域は、中国の沿岸部や朝鮮半島です。中国では江蘇省の塩城周辺などが知られています。春には、再び北の繁殖地へ向かいます。
冬には湿地が凍ったり雪に覆われたりして、餌を探せる場所が変わります。季節に応じて子育てや越冬に適した場所を使い分けることが、大陸のタンチョウの暮らしです。移動経路はいくつもあり、すべての鳥が同じ道を同じ日に飛ぶわけではありません。
北海道では 留鳥として暮らす
現在の北海道のタンチョウは、基本的に北海道内で一年を過ごす留鳥です。大陸から毎年渡ってくる鳥を、北海道で冬だけ見ているわけではありません。
ただし、留鳥でも移動はします。春から夏は湿原に分かれて子育てをし、秋から冬は人里に近い越冬地などへ移動します。「北海道に一年中いる」と「同じ湿原に一年中いる」は、違うことなのです。
また、現在の姿だけを過去に当てはめることもできません。絵画や史料などから、かつて北海道のタンチョウは冬に本州まで渡っていたと考えられています。タンチョウの移動のしかたにも、長い時間の中で変わってきた歴史があるのです。
北海道のタンチョウの一年
北海道での暮らしを季節に沿って追うと、タンチョウに必要なのが「広い湿原一つ」だけではないことが見えてきます。巣をつくる場所、餌を探す場所、安全に夜を過ごす水辺を、使い分けています。

春 湿原で巣をつくる
春になると、つがいは繁殖地へ戻り、なわばりを構えます。浅い水の中にヨシなどを積み重ねて巣をつくり、通常は2個の卵を産みます。卵を温めるのは、オスだけでもメスだけでもなく、交代です。
夏 家族で食べ物を探す
ヒナは親と歩き、食べ物をもらいながら成長します。湿原だけでなく、家族が牧草地などに出てくることもあります。見通しのよい場所にいるからといって、近づいてよいわけではありません。子育ての時間を妨げず、離れて見守りたいですね。
秋 飛べるようになった子と移動する
夏の終わりから秋にかけて、幼鳥は飛べるようになります。家族で人里付近へ移り、収穫後の畑で食べ物を探す姿が見られる季節です。秋は、親子で過ごしてきた夏と、群れで冬を越す時期をつなぎます。
冬 餌場と凍らない水辺を使う
冬は、給餌場や餌を採れる水辺などを利用します。夜には、冬でも凍らない浅い川などで集まって休みます。昼の食事を支える場所と、夜のねぐらは、それぞれに大切です。
冬に見られる鳴き交わしや踊るような動きも、タンチョウの印象的な姿です。つがいは基本的に毎年同じ相手と繁殖します。優雅に見える踊りも、鳥たちの関係や暮らしの中にある行動として眺めると、見方が少し深まります。
地域の人がつないだ命
タンチョウは、日本で昔から大切に思われてきた鳥です。それでも、人の暮らしの変化の中で数を大きく減らしました。江戸時代ごろまでは東日本に広く生息していましたが、明治時代の開拓や狩猟によって激減し、一時は絶滅したと思われたほどです。

1924年、釧路湿原で生息が確認され、これが「再発見」として知られるようになりました。ただ、それ以前にも地元では目撃されていました。地域の人からの情報をもとに北海道の職員が確認した、という経緯を知ると、「いなくなった鳥が突然現れた」という話とは違う、湿原と人のつながりが見えてきます。
冬の餌不足を支えたのも、地域の人たちでした。1952年の厳しい冬、鶴居村の幌呂小学校では、畑のタンチョウを見つけた子どもたちが、校長の提案を受け、家庭から少しずつ穀類を持ち寄って給餌したと伝えられています。冬を越せるように、身近な場所でできることを重ねた歴史です。
タンチョウは1952年に国の特別天然記念物に指定されました。その後も、地域の給餌や湿原の保全、国などの保護事業が続けられてきました。雪景色の中の姿の向こうには、長い時間をかけて命を支えた人々の営みがあります。
人々の文化に生きるツル
湿地とのつながりを伝える呼び名
アイヌ語には、タンチョウを「サロルンカムイ」と呼ぶ言い方があります。「湿地にいる神」といった意味を持つ呼び名です。呼称には地域差がありますが、鳥と湿地の結びつきを感じさせる名前ですね。タンチョウの動きを表した舞も伝えられています。
長寿や夫婦円満を願う文様
日本の着物や工芸品などでは、ツルは長寿や夫婦円満を願う文様として親しまれてきました。白と黒、赤というタンチョウの姿も、私たちが思い浮かべる「めでたいツル」の印象と重なります。
ただし、折り鶴や昔話、美術の中のツルが、すべてタンチョウを指すわけではありません。自然の中で生きるタンチョウという一つの種類と、広くツルに託されてきた願いを分けて考えると、鳥のことも文化のことも、より丁寧に味わえます。
参考:国立アイヌ民族博物館 アイヌ語辞典 ツル タンチョウ/国立アイヌ民族博物館 アイヌと自然デジタル図鑑 タンチョウ/国立国会図書館 模様が意味するもの
湿原と農家の暮らしを守る
保護によってタンチョウが増えた後にも、課題は続きます。冬に多くの鳥が限られた餌場へ集まると、感染症が広がる危険が高まります。現在は給餌量の調整や、生息地を分散させる取り組みも進められています。
また、タンチョウは農地でも食べ物を探します。トウモロコシの種や芽を食べたり、牧草などを包んだシートに穴を開けたりする被害があります。鳥を美しいと思う気持ちと、毎日の仕事を守りたい農家の事情。その両方を踏まえて対策を考える必要があります。
電線や車への衝突も、命を脅かす要因です。タンチョウを守るには、暮らしを支える場所も必要です。子育てできる湿原、自然の餌を採れる水辺、安全なねぐら、農家が営みを続けられる環境を、地域の中につないでいくことが大切です。
タンチョウに出会ったら
長い脚でゆっくり歩いたり、くちばしを水の中へ入れたり、親子で食べ物を探したり。タンチョウの魅力は、飛ぶ瞬間や踊る姿だけではありません。普段のしぐさにも、その場所で生きる工夫があります。
- 離れた場所から静かに見る。双眼鏡を使い、鳥を追いかけたり驚かせたりしない。
- 農地や私有地に入らない。道路上の停車や通行の妨げにも気をつける。
- 自分で餌を与えない。保護のための給餌は、管理のもとで行われている。
- 現地の決まりを守る。フラッシュやドローンなど、禁止されている行為をしない。
大陸では季節の旅を続け、北海道では湿原と越冬地を行き来するタンチョウ。白い大きな翼を見たら、その鳥が使う水辺や、命を支えてきた人の暮らしにも目を向けてみてください。いつもの一枚の写真から、鳥の一年が少しずつ見えてきます。
オチュンと復習! タンチョウクイズ
全5問。選択肢をクリックすると、正誤と解説が表示されます。選び直して、何度でも確かめられます。

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