
空港で飛行機の後ろ姿を眺めていたら、しっぽの先に、小さな穴が見えました。
「翼の下に大きなエンジンがあるのに、ここにも何かあるの?」
その奥に隠れているのが、APU(エーピーユー)という小さなエンジンです。多くの旅客機で、照明や空調、出発前のエンジン始動を支えています。
飛行機を前へ押すためのエンジンとは、ひと味違う働き者。今回はオチュンと一緒に、しっぽの中の仕事をのぞいてみましょう。
オチュン飛んでいくための大きなエンジンのほかにも、旅の準備を支えるエンジンがあるんだね!
APUは、電気や空気の力をつくる小さなエンジン
APUは、Auxiliary Power Unitの頭文字。日本語では補助動力装置と呼びます。
名前は少し難しそうですが、まずは「飛行機が自分で電気などをつくるための、小さなエンジン」と考えてみてください。
旅客機は、地上で止まっている間も電気や空調を使います。乗客を迎える客室の明かり、操縦席の機器、機内を過ごしやすくする空気。そのためだけに大きな主エンジンを回し続ける代わりに、APUや空港の地上設備が働きます。
APUの代表的な仕事は、①電気をつくる、②空調を支える、③主エンジンの始動を助けるの3つ。具体的な供給の方法は、機種によって違います。
| 比べるところ | 主エンジン | APU |
|---|---|---|
| 大きな役割 | 飛行機を前へ進める力を生む | 機内で使う電気などの動力を供給する |
| ほかの仕事 | 発電や、機種によっては圧縮空気の供給も担う | 空調や主エンジンの始動を支える |
| 見える場所の例 | 翼の下など | 多くの旅客機では、胴体最後部の中 |
APUは、主エンジンが止まったときに代わりに飛行機を押す「予備の推進エンジン」ではありません。機内で必要な力を支えるエンジンなのです。
しっぽの穴は、APU本体ではなく排気口


多くの旅客機では、APUは胴体のいちばん後ろ、細くすぼまった「テールコーン」の中に収まっています。上に立つ垂直尾翼の中ではなく、胴体側にあるのがポイントです。
外から見つけやすいのは、その装置から出る排気を外へ流す排気口。しっぽの先に見える穴だけが、APUのすべてではありません。
APUを動かすには、外の空気を取り込む吸気口も必要です。吸気口から空気を取り入れ、内部で仕事をした後の排気を、別の出口から外へ流します。
「空気の入口」「中のエンジン」「排気の出口」を分けて見ると、しっぽの中の様子が少し想像しやすくなります。



見えている穴は、出口なんだ! 本体は、その手前の胴体の中に隠れているんだね。
オチュンの図解で見る、APUの3つの仕事


① 電気をつくる
APUが発電機を回すことで、電気をつくれます。その電気が、機内の照明や操縦席の機器などを支えます。
翼の下の主エンジンがまだ動いていなくても、機内で出発の準備を進められる。APUは、そのための電源のひとつです。
ただし、客室に明かりがついているからといって、必ずAPUが動いているとは限りません。空港側から電気をもらっている場合もあります。
② 空調を支える
一般的な方式では、APUは圧縮空気も供給します。圧縮空気は、ぎゅっと圧力を高くした空気のことです。
その空気を空調装置で冷やしたり、温度を整えたりして、客室へ送ります。APUからいきなり冷たい風が出てくるわけではなく、空調装置と組み合わさって働きます。
ここで大切なのは、空調に使う圧縮空気と、燃料を燃やした後の排気は別の流れだということ。しっぽの排気口から出たガスを、客室へ送っているわけではありません。
③ 主エンジンの始動を助ける
主エンジンは、燃料を燃やし始める前に、内部の回転部分を回す必要があります。その最初の回転を助けるのが、スターターという装置です。
一般的な方式では、APUから送られる圧縮空気の力でスターターを動かし、主エンジンの回転部分を回します。やがて主エンジンは、自分で運転を続けられる状態になります。
APUそのものが主エンジンを押して回すのではなく、空気や電気を供給して、その始動を助けるのです。



明かりも、空調も、大きなエンジンの最初のひと回しも。しっぽの中から支えているんだね!
APUは、バッテリーではなく燃料で動く
電気をつくると聞くと、大きなバッテリーのように思えるかもしれません。でも、一般的なAPUは、航空燃料を使って動くガスタービンエンジンです。
取り込んだ空気を圧縮し、燃料を燃やして、そのエネルギーで内部のタービンを回します。回転する力を使い、発電機や、供給用の空気を圧縮する装置などを動かします。内部の構成はAPUの型式によって異なります。
バッテリーが電気を蓄えておく装置なのに対し、APUは、燃料を使いながら電気などをつくる装置。だから、動かしている間は燃料を使い、排気や音も出ます。
「小さいから、ずっと回しておけばよい」というものでもないのですね。
B787は、主エンジンを電気で回して始動する
ここまでの図では、主に圧縮空気を使う方式を見てきました。でも、すべての飛行機が同じしくみではありません。
B787は、主エンジンを電気の力で回して始動する方式です。通常、その始動に必要な電気をAPUが供給します。APUが使えない場合には、条件に合う地上電源を使う方法もあります。
B787のAPU「APS5000」も、燃料を使うガスタービンです。メーカーの説明にある「オールエレクトリック」は、APU自体が電池だけで動くという意味ではなく、機体へ供給する動力を電気にまとめた設計を表しています。
「何を支えるか」と「どんな方法で支えるか」は、分けて考える。 APUの役割を知ったうえで、機種ごとの違いも楽しんでみてください。
駐機中は、地上の設備に助けてもらうことも


搭乗口の近くに止まっている飛行機の周りで、ケーブルや太いホースを見かけたことはありませんか。
その中には、地上電源から電気を送るケーブルや、地上空調から冷暖房の空気を送るホースがあります。電気を供給する設備と、空気を供給する設備は、役割が違います。
こうした設備を利用できれば、APUを動かす時間を短くできます。ANAやJALも、地上からの電力・空調の供給を活用して、APUの使用時間を減らす取り組みを紹介しています。
燃料の節約や、排出される二酸化炭素・騒音の低減につながる工夫です。実際にどの設備を使うかは、空港や駐機場所、機体、外の気温などの条件によって変わります。
機内でエアコンの風を感じたとき、「今はしっぽのAPUかな、それとも地上からかな」と考えると、搭乗前の時間にも発見が増えそうです。



飛行機が自分でつくるときも、空港から受け取るときもあるんだね。地上の設備ともチームなんだ!
飛んでいる間も、APUはずっと動いている?
APUは、いつも回し続けるとは限りません。
主エンジンが動き始めると、主エンジン側の発電機などが、機体へ電気を供給できます。通常の飛行では、APUを止めている場面も多くあります。
一方、機種と条件によっては、飛行中に補助の電源として使うこともできます。地上で働くだけの装置、というわけではありません。
| 場面 | 電気や空調を支えるものの例 |
|---|---|
| 搭乗口に駐機しているとき | 地上の電源・空調設備、またはAPUなど |
| 主エンジンを始動する前後 | APUなどが準備や始動を支える |
| 通常の飛行中 | 主エンジン側の発電機などが担い、必要に応じてAPUも補助する |
これは代表的な関係をまとめたものです。APUをいつ使うか、飛行中にどの高さまで使えるかなどは、機種や運航の条件で違います。
次に飛行機を見たら、しっぽと地上の設備にも注目
大きな主エンジンや翼は、遠くからでも目に入りやすい存在です。その一方、APUはしっぽの中で、出発前から旅を支えています。
覚えておきたいのは、「電気」「空調」「始動」の3つの仕事。そして、外から見える排気口と、その奥にある本体は別のものだということです。
次の空港では、ターミナルや展望デッキから見える範囲で、胴体の最後尾や、地上につながるケーブル・ホースも眺めてみてください。小さな穴や一本のホースにも、飛行機を動かすための仕事が見えてきます。
機種そのものにも興味が湧いたら、こちらの記事もどうぞ。



空へ押し出す大きなエンジンと、機内の仕事を助ける小さなエンジン。見えないところにも、頼もしい仲間がいるんだね!
オチュンと振り返る APUクイズ
選択肢をクリック・タップすると、正解と解説が表示されます。
第1問 APUの主な仕事は、どれ?
A. 主エンジンの代わりに飛行機を前へ押す
おしい! 答えはBです。
APUは、機内で使う電気などを供給する補助動力装置です。飛行機を前へ押す予備の推進エンジンではありません。
B. 電気や空調、主エンジンの始動を支える
正解! 答えはBです。
APUは、機内で使う電気などを供給する補助動力装置です。飛行機を前へ押す予備の推進エンジンではありません。
C. 飛行機の向きをしっぽから操縦する
おしい! 答えはBです。
APUは、機内で使う電気などを供給する補助動力装置です。飛行機を前へ押す予備の推進エンジンではありません。
第2問 しっぽの先に見える小さな穴は?
A. APUの排気を外へ出す排気口の例
正解! 答えはAです。
多くの旅客機では、本体がテールコーンの中にあり、外から排気口が見えます。吸気口・本体・排気口を区別するのがポイントです。
B. APU本体のすべてが外に出ている部分
おしい! 答えはAです。
多くの旅客機では、本体がテールコーンの中にあり、外から排気口が見えます。吸気口・本体・排気口を区別するのがポイントです。
C. 客室に冷たい空気を送る吹き出し口
おしい! 答えはAです。
多くの旅客機では、本体がテールコーンの中にあり、外から排気口が見えます。吸気口・本体・排気口を区別するのがポイントです。
第3問 一般的な方式で、主エンジンの始動を助けるのは?
A. しっぽから出る排気で主エンジンを押す
おしい! 答えはCです。
一般的な方式では、圧縮空気でスターターを動かし、主エンジンに最初の回転を与えます。B787のように、電気で始動する機種もあります。
B. 客室のエアコンの冷たい風を当てる
おしい! 答えはCです。
一般的な方式では、圧縮空気でスターターを動かし、主エンジンに最初の回転を与えます。B787のように、電気で始動する機種もあります。
C. APUの圧縮空気でスターターを動かす
正解! 答えはCです。
一般的な方式では、圧縮空気でスターターを動かし、主エンジンに最初の回転を与えます。B787のように、電気で始動する機種もあります。
第4問 B787のAPUが通常の主エンジン始動に供給するものは?
A. 翼を動かす油圧だけ
おしい! 答えはBです。
B787は電気で主エンジンを回して始動し、通常はその電力をAPUが供給します。APU自体は燃料を使うガスタービンです。
B. 電気
正解! 答えはBです。
B787は電気で主エンジンを回して始動し、通常はその電力をAPUが供給します。APU自体は燃料を使うガスタービンです。
C. 客室から吸い出した排気ガス
おしい! 答えはBです。
B787は電気で主エンジンを回して始動し、通常はその電力をAPUが供給します。APU自体は燃料を使うガスタービンです。
第5問 駐機中のAPUの使用時間を短くできる方法は?
A. 利用できる地上電源や地上空調を使う
正解! 答えはAです。
地上から電気や空調用の空気を受け取れれば、APUを使う時間を減らせます。実際の使い方は、空港・機体・気温などの条件で変わります。
B. 排気口をふさいで音を小さくする
おしい! 答えはAです。
地上から電気や空調用の空気を受け取れれば、APUを使う時間を減らせます。実際の使い方は、空港・機体・気温などの条件で変わります。
C. 飛行中も含め、すべての機器を止める
おしい! 答えはAです。
地上から電気や空調用の空気を受け取れれば、APUを使う時間を減らせます。実際の使い方は、空港・機体・気温などの条件で変わります。
出典と参考資料
本文と図解は、航空会社・航空機メーカー・APUメーカーの公開資料をもとに構成しました。
- ANA:航空機の運航における取り組み — APUの圧縮空気・電気の役割と、駐機中の使用時間の短縮。
- JAL:日々の運航の工夫 — 尾部のAPU、航空燃料の使用、地上設備の活用。
- Pratt & Whitney:Commercial Auxiliary Power Units — ガスタービン式APU、圧縮空気・発電のしくみ、B787向けAPS5000。
- Pratt & Whitney:APUの整備と搭載位置 — テールコーン内への搭載。
- Pratt & Whitney:APUの基本的な役割と飛行中の補助電源 — 地上での役割と、飛行中の補助電力供給。
- Airbus:Cabin air quality — 圧縮空気を空調装置で処理して客室へ送るしくみ。
- Airbus:従来のAPUが担う推進以外の動力供給 — 航空燃料で動くAPUと、空調・照明などの役割。
- Boeing:787 Airport Planning資料(PDF、5-21ページ) — B787の通常のエンジン始動ではAPUから電力を供給すること、地上電源を使う場合の条件。
- Olivier Cleynen:B787のAPU排気口の実機写真 — 表紙を描く際の形状確認用。写真のライセンスはCC BY-SA 3.0。
- JAL:松山空港へのバッテリー式地上電源装置の導入 — 地上電源を利用したAPUの使用時間の短縮例。
情報確認:2026年11月7日。イラストは役割や位置関係を説明する模式図で、正確な設計図・配管図ではありません。APUの配置、供給方式、使用できる条件は機種によって異なります。









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