「水は0℃で凍る」と習った人は、多いでしょう。
ところが、空の上には、0℃より冷たいのに、凍らずに水のままでいるつぶがあります。たとえば、−10℃の雲の中に、まだ液体の水のつぶが浮かんでいることがあるのです。
この水のつぶが冷たい飛行機にぶつかると、氷がくっつくことがあります。小さなつぶの集まりが、大きな飛行機の飛び方に影響するのです。
オチュンといっしょに、雲の中から翼の表面まで、ぐっと近づいて見てみましょう。

① 0℃より冷たい水。それが「過冷却」
雲は、目に見えない水蒸気そのものではありません。小さな水のつぶや、氷のつぶの集まりです。
雲の水のつぶは、とても小さく、凍り始めるきっかけが少ないと、0℃より冷えても水のままでいられることがあります。この状態を過冷却(かれいきゃく)といいます。
「すごく冷えた氷」ではなく、凍る温度より冷たいのに、まだ液体の水というところがポイントです。

オチュン② どうして、すぐには凍らないの?
水のつぶを、さらにぐんと拡大すると、水の分子(ぶんし)という、もっと小さなつぶがあります。水が凍るときには、この分子が氷の並び方にそろっていきます。その最初の「氷の芽」ができると、凍り始めやすくなります。
雲の中では、ある種類のちりなどが、氷のでき始める足場になることがあります。でも、水のつぶをつくる足場と、氷をつくる足場は、同じ働きとはかぎりません。 雲の水のつぶにちりが入っていても、すぐ凍るとはかぎらないのです。
氷の芽がなかなかできず、水のまま冷えている。過冷却は、そんな状態だと考えてみましょう。
③ 翼に当たると、氷がくっつく!
飛行機が、過冷却の水のつぶをふくむ雲に入ったところを想像してください。
水のつぶの一部が、0℃以下に冷えた翼などにぶつかると、凍るきっかけができます。水が凍って表面にくっつき、あとから来た水も加わると、氷が育っていきます。
このように、飛行機などの表面に氷がくっつくことを「着氷(ちゃくひょう)」といいます。


ただぶつかれば、どんな温度でも凍るわけではありません。水の冷たさや、翼の表面の温度なども関係します。
また、空中で水のつぶが凍っても、それだけで「飛行機への着氷」になるわけではありません。ここで注目しているのは、機体に氷がくっつくことです。
④ 重くなるだけではない。翼の形が変わる
「氷が重いから、飛びにくくなるのかな?」
それも一つの理由です。でも、とくに大切なのは、氷によって翼の形や表面が変わり、まわりの空気の流れが乱れることです。
飛行機の翼は、まわりを流れる空気から、機体を上に支える力を受けます。この力を揚力(ようりょく)といいます。
翼の前ぶちに氷がついて、でこぼこした形になると、空気が翼に沿って流れにくくなります。そのため、機体を支える力が弱まったり、進むのをじゃまする空気の抵抗(ていこう)が増えたりします。


「うっすらした氷なら、気にしなくてよい」とは、いえません。 量だけでなく、どこに、どんな形でつくかが重要なのです。
⑤ 翼だけじゃない。氷で困る場所
飛行機には、翼のほかにも、氷がつくと困る場所があります。


- 尾翼(びよく):飛行機の後ろにある小さな翼です。氷によって、機体の姿勢を保つ働きなどに影響が出ることがあります。
- エンジンの入り口:氷がつまったり、はがれた氷が吸いこまれたりすると、エンジンに影響することがあります。
- 速さを調べる管:機体の外に出た「ピトー管」という小さな管です。穴が氷でふさがると、速さを正しく調べられなくなることがあります。
氷は、飛行機をただ重くするだけでなく、飛ぶための形や、必要な情報を調べる働きまで、じゃますることがあるのです。
⑥ 白い氷と、透明な氷
翼につく氷にも、でき方によるちがいがあります。
水のつぶがすばやく凍り、空気をとじこめると、白くざらざらした氷になります。一方で、水が表面に広がってから凍ると、透明でかたい氷になることがあります。


もう少しくわしく:大きな水のつぶが、要注意な理由
過冷却の水のつぶが大きいと、翼の前ぶちから、さらに後ろまで届くことがあります。氷を防ぐ装置で守られていない場所に水が届いて凍ると、装置だけでは取り除けない氷が育つおそれがあります。「氷を防ぐ装置があるから、どんな雲でも大丈夫」というわけではありません。
⑦ 空では、予報と装置で備える
この危険に備えて、パイロットや地上の担当者は、雲や気温、着氷の予想などを調べます。飛んでいる途中も情報を確かめ、必要に応じて飛ぶ道すじや高さなどを変え、危ない場所をさけます。
飛行機側にも工夫があります。たとえば、翼の前ぶちやエンジンの入り口の一部を、熱で暖めて、氷をつきにくくするしくみです。


飛行機によっては、翼の前ぶちにあるゴムの部分をふくらませ、ついた氷を割って落とすしくみもあります。
氷をつきにくくすることを「防氷(ぼうひょう)」、ついた氷を取り除くことを「除氷(じょひょう)」といいます。どちらも安全を助けますが、装置には守れる範囲や使える条件があるため、天気に合わせた判断も欠かせません。
⑧ 地上でも、出発前に氷を取り除く
空の中だけでなく、空港に止まっている飛行機にも、雪や霜、氷がつくことがあります。
そのまま飛び立つと、翼などの働きに影響が出るおそれがあります。そこで専門の作業員が、必要に応じて専用の液をかけ、雪や氷を取り除いたり、新たな凍結を防いだりします。


空港で飛行機に液をかけているところを見たら、「翼の大切な形を守っているのかな」と思い出してみてください。



雲の水が0℃より冷えても水のままでいること。冷たい翼に当たると、氷がくっつくこと。そして、その氷が翼の形や空気の流れを変えてしまうこと。このつながりが、過冷却の雲と飛行機の「危ない関係」なのです。
⑨ オチュンと確認! 復習クイズ5問
選択肢を押すと、正解と解説が表示されます。何度でも選び直せるよ。
第1問 「過冷却」って、どんな状態?
第2問 この記事で説明した飛行中の着氷は、どうして起こる?
第3問 翼に氷がつくと、重さのほかに何が問題になる?
第4問 飛行機の氷への備えとして、正しいのは?
第5問 空港で出発前の飛行機に専用の液をかけるのは、なぜ?
出典と参考資料
- 気象庁・長野地方気象台「春の特徴」の「着氷」「過冷却とは」 — 0℃より冷たくても水のままでいる雲粒と、物体に当たって凍るしくみ。
- 気象庁気象研究所「雲の微物理過程の研究」 — 雲をつくる水と氷、雲の水のつぶや氷をつくる足場のちがい。
- NASA「Basic Icing Physics」(英語)— 温度、水の量、水滴の大きさと、氷のでき方の関係。
- 米国連邦航空局 FAA「In-Flight Icing」(英語)— 着氷による空気の流れと飛び方への影響。
- 世界気象機関 WMO「Aviation Hazards — Icing」(英語)— 着氷の種類と、翼・エンジン・計器などへの影響。
- NASA「Supercooled Large Droplets」(英語)— 大きな過冷却水滴が、装置で守られた範囲より後ろで凍る危険。
- NASA「Before You Fly — Module Overview」(英語)— 予報と飛行機の特性を考えて、着氷に備えること。
- NASA「Aircraft Design for Icing — Anti-Icing Systems」(英語)— 熱などを使って氷をつきにくくするしくみ。
- NASA「Aircraft Design for Icing — Deicing Systems」(英語)— ゴムをふくらませて氷を取り除くしくみ。
- ANAエアサービス福島「オペレーション部門」の「防除雪氷」 — 空港で専用の液体を使い、雪や霜を取り除き、凍結に備える作業。










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